47話裏② 濫入と介入(サキュバスさん視点)



割って入ったのはここの教会の修道服を着た男。


「フハハハ! さぁ、この者達を皆殺しにしろ!!!!」



 そう言うと男の背後から、灰色の腕が十本、足も十本ある巨大な物が現れた。そう、“物”。頭すら無く、ただ手と足を無造作に生やしただけの気持ち悪い何か。


「このまま帝国をも滅ぼしてくれる!」


 目の前の私が生きてるのにこのデカブツが残ると確信しているようだ。魔王軍幹部、四天王の一人、“闇夜の魔術師プロスティート”として舐められたまま帰る訳にはいかない。


「闇の槍よ、〖ダークランス〗」



 勇者達は後回しで腕と足の物体に攻撃をする。腕が私の魔法をあっさりかき消して攻撃も仕掛けてくるので、羽を出して距離を取る。



「偉大なる女神、ヘカテーよ、我が贖罪の声に応じ、闇黒あんこく穿孔せんこうもたらせ、〖ブラックホール〗」





 黒い大穴が出現し――――異形を飲み込む。



「ば、ばかな!?」


「ちょっと硬い程度で私に勝てると思われたのは癪ね」


「ふざけるな! これを作るのにどれほど苦労したと……」


「闇の槍よ、〖ダークランス〗」




 男を紫の槍が貫く。即死のはずだ。


 次は勇者達。…………どこに行ったかしら?




 居ないわね。ヴイェルジュの魅了も完全に解かれている。逃げられたみたいね。聖剣は回収したから特に問題は無いのだけどね。


 ……あれ? ま、待って!



「勇者、甘く見てたわ。あの土壇場でそこら辺に置いといた拡張バックから取り出して持ち出したのね」



 すぐにまた奪えばいいだけなんだけどね!



「そこの別嬪さん、1杯どうかの?」


「!?」



 いつから私の背後に? また歳をくった男だけど、この雰囲気、人間じゃなさそうね。



「……神が何か御用でしょうか?」


「よく儂が神じゃと分かったの〜」


「それで?」


「単刀直入に言うと、勇者が聖剣を所持していないと困るから邪魔をしに来たというわけじゃよ」



 魔王様、どうやら私はここまでのようです。神に勝てるほど強くなくとも、最後まで抗ってみせましょう。



「そう生き急ぐでない。別にお主を殺すとかそういうのをしたいわけじゃないのじゃよ」


「?」


「儂は、人間と魔族が手を取り合って欲しいだけじゃよ」


「………………」



 そんな甘ったれたことができる段階はとうの昔に過ぎた。今更、お互いの不信感を拭うことも、共存の為に歩み寄ることもできるはずがない。



「今は分からないじゃろうが、いずれ分かる時が来る。いや、分からされる時が来るの方が正しいかもの〜」


「それを聞いて、私が心変わりするとでも?」


「ふぉっふぉっふぉ、微塵も思ってないわ。ただ、魔王のやつにゼウスがそう言っていたとだけは伝えといておくれ」


「……それで私は勇者達を見逃せばいいの?」


「そうじゃよ。既に見返りは魔王のやつに送ってある。お主が怒られることは無いからの〜」


「命拾いしたとでも考えましょう」


「ついでに、今すぐ国に戻ることをオススメするぞ〜」


「報告ぐらいした方が」


「やめといた方がよい。ほらの」


 急に空が暗くなった。いや、“夜”になった。明らかに異常な現象だ。目の前にいる神は何を知っているのか、ニコニコしている。


 よく分からないけど、ここで逆らって殺されてもたまらないので、言われた通り帰るとしよう。仮面の男が何をするのか気にはなるけど、健闘を祈る程度にしておこう。また会えたら聞けばいいし。


 夜になった空を飛んでゆく…………


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る