35話 帝国六輝と幕引き



「急いでるのでね☆ 光の輝きよ〖フラッシュ〗☆」


 師匠もどきが目眩しをする。もちろん俺も聞いてないので食らってしまう。


「今のうちに行きなさい☆」


「いや、ボクも見えないんだけど」


「あらら☆」


 意味ねー。そんなやり取りをしながら目を慣らしていく。ギリギリ見えてきた。



「【雷纏】」


「ここは決戦の地、〖バトルフィールド〗ですわ」


「【メイドの嗜み】」


 おっさんは雷を纏って、第2さんは結界みたいのをつくって、メイドさんはよく分からないスキルを使った。完全に臨戦態勢やね。俺もナイフを抜いて姿勢を低くして構える。この構えは稽古で編み出した、戦いやすい構えだ。


「左腕【深化】5%」


『左腕の【深化】出力:5%を確認』


 昂ってくる。左腕だけが黒く染ってるはずだ。メイド服の上に外套も着てるからわからんけど。


「なんかそれ、やばい感じがするな。殿下、この仮面は俺がやります」


 おっさんが警戒する。そういうのが分かる人は強いんだよなー。勝てるかな?



「そう、なら任せるわ」


「もしかしてわたしを甘く見てるかな? わたしも強いよ☆」


「私の方が強いですわ」


 なんか言い合ってるが無視だ。このおっさんから目を離したら一瞬でやられそうな気がする。雷を使ってるからスピードも相当なはず。しかも格上、目が離せない。


「世の中には人間の枠に収まんねえ化け物が一定数いる。お前さんはそれになり得る奴だから、ここで死んでけや」


 接近される。まだうちの皇女さんの方が速いから見える。武器は持ってないが、雷を纏った素手で殴りかかってきた。


「【サイドステップ】」


 左に避けながら脇腹をナイフで斬りつけていく。斬られたのに全く怯んだ様子を見せない。流石軍人だな。


「〖chaotic arms〗」


 おっさんの周りに腕を展開してすぐに叩きつける。


「【高速跳躍】!」


 上に逃げられたか。ミスったな。足を上に出しとけばよかった。ここの扉を開けた時に使って、MPは30秒で1回復だから、100回復になるのは50分、最大MPが420で80回復でも40分かかる。戦闘中に撃てる回数は増えないと考えた方が良さそうだ。


 混沌魔術はあと2回だけ。火魔法もあるけど、室内で使うと面倒になるから却下。



 もうあれしかない。接敵して左腕を振りかぶる。



「【スリップ】」



 ステンッ



「な!?」



 そのまま黒いであろう腕で顔面にストレート。


「【雷将】!」


 当たった。けど、何かのスキルを使ってたから、一応警戒する。


「危ねぇな。あのまま食らってたら顔面ひしゃげてたな」


 無傷ではなさそうだけど、軽傷っぽい。


「仕留めたと思ったんだけどね」


「はっ。一段階ギアを上げて、衝撃をいなしたんだ。こっからが本番だぜ」


 説明してくれた。アホなんかな? アホそうだな。


「いくぜ!」


 速ッ!


「ギェッ」

「アバッ」

「グホッ」


「ガハッ」



 ……速すぎる。見えない。顔、腹、背中、腹、と殴られて壁に激突して、全身がクソ痛え。これは団長さんの本気と同じレベルだ。


「一応俺、帝国六輝とかいうののまとめ役やってんだ。そう簡単に倒せると思ったか?おっ」


 ドサッ


「向こうも終わったみてぇだな」


 終わった? 何が? なんか俺の隣に飛んできたんだが、これは? もしかして、


「し、しょう?」


「お前さんのお仲間さんだな。静かになったもんだな」


 そうか、死んだか。何やっても死にそうにない人だと思ってたんだけどな。てか、敵とかを殺すのは沢山したけど、味方が死ぬのを直接見たのは初めてかも。その割には悲しいとかあんまり感じないな。一緒にいたのも精々3日もなかったからかな。


上手くいくか心配だが、流石に3対1は分が悪いから賭けに出る。


 握りしめてたナイフをストレージにしまう。



「別に、仇討ちとか、そういうのじゃないけど、ボクはあくまでも見下ろす立場なんだ。だから、君たちは死ね、全身【深化】5%」



『【深化】出力:5%を確認』


 全能感が俺を襲う。上手くいったようだ。今ならなんでもできそうだ。出力低めだけど、何とか自我は保ててる。今はここが限界だと思う。感覚的には各部分が5%、だから左腕の出力は変わってないけど、全身が【深化】したからか、さっきの数倍昂っている。


 まず、1番近くにいたおっさんを腹パン。

 衝撃が逃がされた気がするが、後回しだ。


 次に近い第2さんの顔面をパンチ。隣にいたメイドさんをその勢いで頭に回し蹴りを食らわせる。


「おい、死んじまったじゃねぇか。俺の責任問題になるだろうが」


 おっさんが高速で接近してくる。それに対応して俺も近づく。お互いが武器なしの素手。


「オラァァァァァァァァァァァ!!!!」


「ハァァァァァァァァァァァァ!!!!」



 叫びながら、殴り、蹴りをがむしゃらにする。速度、威力、共に互角。一歩も引くもんか!




 だが、

「ッ、く、そ」





 技術で競り負けた。壁にもたれかかり、これ以上は無理そうだからトドメを待つ……


「その分だと既に回収は済んでいるようじゃの」


「あんたは……」


「なんで、ここに?」


 結界に閉じ込められたとか言ってたけど。




「ふん、もうこっちは終わったのじゃ。お主らが帰ってこんから迎えに来たのじゃ」


「待て、結界で閉じ込められてたはずじゃあ……」


「力量を見誤ったな、雷将の。あの程度ならちょっと溜め技を使えば一発じゃよ」


「なっ………」


「妾のお気に入りを1人を殺したのじゃ。お主にも死んでもらおう」



 溜め技とか格ゲーかよ。でも、助かったなー。HPは……あと6!? 6しかないのかよ! 本当に瀕死じゃんか。


「解除」


 ふう、疲れたな。



「抵抗はさせてもらうぜ! 【サンダーバード】!」


「無駄じゃよ」


 雷の鳥になったと思ったら火の球体に飲み込まれた。相変わらずチートだな。終わったからか、こっちに寄ってくる。



「ネクタールを寄越すのじゃ。本の方はお主にくれてやるのじゃ」



「あ、はい」


 ストレージから瓶を取り出して渡す。


 ……ちゃんと渡せた。よかった。こういう流れは横から何者かが掻っ攫っていくのが定番だから注意が必要。


 そのまま飲む皇女さん。神酒とか言ってたけど、どんな味なんだろ。





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