“愛の鍛冶師”


――ほんの300年ほど前、一人の村娘がいた。

 彼女は、他のありふれた村娘と違い行動した。愛のために。そして――





 かつて大国の一つに数えられた国があった。


 その国は、『人民皆兵』を掲げ、国土を武力により広げていった。



 その国の小さな村にキャシーという1人の少女と幼なじみの少年がいた。


 2人はいつも仲良く農作業をして、成長し、結婚して、子供も産み、貧しいながらも幸せな暮らしをしていた。


 そんな幸せな日常を過ごしていたある日、徴兵の指令書が届いた。

 戦争があるようだった。


 国からの指令には逆らえないので、男は支度を始めた。


 愛する夫に死んで欲しくなかった彼女は、せめて強力な武器でも贈ろうと、考えた。


 剣の打ち方など知らなかった女は、近くの鉱山に行って、採った鉱石を溶かして形作るというのを何回もやった。


 愛する夫のためを想って無心に打った。子供もその間夫に任せていたので、三日三晩打ち続けた。



 そんな懸命な想いが天に届いたのか、素人が作ったとは思えないほど美しい刀身の剣ができた。


 そして、余った素材で自分が使える果物ナイフを作った。何故かこちらも美しいものができた。




 できた剣とナイフを肌身離さず持ち歩こうと夫婦で誓い、彼女は夫を見送った。




 父親の分も愛情を注いで子供を育てていたある日、訃報が届いた。


 夫は多くの武功をあげたものの、愛用の剣と己の命を引き換えに、巨大な魔物と相打ちしたという。


 悲しみにくれたキャシーは、そんな命令を出した軍の上層部を恨み、憎んだ。



 そして、いつも光り輝いていた彼女のナイフは、刀身が黒く染っていき、愛のナイフは、怨憎のナイフになってしまった。



 息子は母に任せて、圧倒的な力を持った武器を持ち、一人で上層部を崩壊させた。


 目的を完遂させた彼女は行方を眩ませ、それ以来彼女を見た者は居ないという。

 




 キャシーが愛のために奇跡を起こし、名剣をつくったことで、憧憬の念を込めて、

 “愛の鍛冶師”と呼ばれることとなった。



 今でも、彼女の起こした奇跡から、大切な人のために槌を振るうことが素晴らしいとされている。













 しかし、風の噂では、彼女がまだどこかで生きているという。



 300年も人間は生きられるのか、何のために生き長らえているのか、謎は多い。













 

























 愛の剣とナイフは、祝福を授けたのか、はたまた試練を与えたのか、そしてその行き着く先には何が待っているのか…………














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