“秩序の鎖”

――大戦期、人と魔族の争いが過激化し、一進一退を繰り返していた時代。


 人々が力を手に入れた代わりに、治安は悪くなった。


 当時最前線にいた勇者パーティーの1人はこれを憂い、一人、離脱し世界各地を渡り歩き治安を正していった――





 其の名はレフテス。戦闘民族の一つに数えられているアマゾネスの集落で暮らしていた。



 集落の中でもかなり強い部類で、たまに傭兵として戦場でも活躍したという。





 そんな生活をしていたある日、集落にとある男3人、女2人の者達が訪れた。彼等は勇者とその仲間であった。


 これを聞いたアマゾネスはみんなして、戦いを申し込んだ。結果としては勝ったり負けたりだったが、中でも勇者の男は勝ち続けていた。


 そして、レフテスは勇者と戦い、引き分けた。



 たまたま他に強いアマゾネスが戦場に赴いてるのもあり、勇者といい勝負が出来たのは彼女だけであった。



 アマゾネスはその特性上、強い男を好む。


 レフテスは勇者に恋心を抱いた。


 しかし、真面目な彼女は、戦時中にそのような色恋にうつつを抜かすなどもってのほかだとアプローチ一つしなかったそうだ。




 そうして、勇者パーティーの一員として数々の武勲をあげた彼女は、休暇として帰郷することにした。


 しかし、道中の町が異様に暗い雰囲気で、違和感を覚えた。



 レフテスは、顔を隠し、何故暗いのかを聞いて回った。



 その結果、勇者パーティーが帰還する時は明るく振る舞い、普段は冒険者などの力のあるものに搾取されていた、しかもどこに行っても同じということが分かった。



 長い戦争で力に固執し、国の内部が大変なことになっていることを見て見ぬふりをする国家元首たちにも腹が立った。


 自分たちが戦勝パーティーで食べていたのは、何の罪も無い民から不当に奪ったものからできていると知った彼女は、帰郷を中断し、勇者達に別れを告げた。


 彼等が戦場に必要なのも重々承知だったからだ。

 しかし、今の世界の状況を変えるには力を持った自分が調子づいた連中をどうにかするしかないと考えた。



 そうして彼女の長い旅は始まった。


 国の中枢に乗り込み、直談判したり、裏の組織と戦ったり。


 時には国を相手どって戦い、政権を交代させたり。



 数々の国で大立ち回りし、徐々に治安は回復されていった。



 そして漸く帰郷した彼女の目に映ったのは、かつての友人たちが子供に戦い方を教えている様子だった。



 自分が世界を変えているときに友人たちは子供をつくり、育てていたのだ。旅の途中、風の噂で勇者と、その仲間の聖女が結婚したというのも聞いていた。



 レフテスは、世界中の普遍的な幸せを配っていたが、かつて共に歩んでいた者達は自分の幸せを掴んだ。


 彼女は、後悔した。


 それと同時に、自分の役目が幸せを他者に配ることだと自分に言い聞かせて、旅立った。



 そして晩年、彼女は自らが築き上げた、監視塔の屋上で眠るように死んでいった。




 当時か死後かは定かではないが、秩序を重んじた人々は、彼女を尊敬し、憧れた。



 そして“秩序の鎖”と呼ばれた。






























 未婚の女性に戒める際の例として、または皮肉で


 “一匹狼”とも。



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