第79話 観測所奪取

「よし。いくぞ」富士の行動部隊も、予定通りに動いた。丁度、スタインも次の警戒所を目指し始めたころだ。勿論、そんなことは知らないが、計画通りに進めることにした。最初の広間で激しい抵抗を受けた。ここを落とせば、上昇装置を抑えることが出来る。そうなれば、一気に観測所までいけるのだ。警備兵は流石に多かったが。腕は二流と言ったところだ。


「抑えたぞ!」と小林が叫んだ。と同時に、警備兵たちは両手を高く上げ、物陰から出てきた。あっけない幕切れは、観測所への応援が無いことが功を奏した結果だ。

「武器を回収しろ」と僕が言うまでもなく、次々と警備兵の武器が集められ、僕の足元に積み上げられていった。地下都市からの援軍はまだ来ない。それは、陽動作戦が成功していることを物語っているからだろう。僕をそう思っていた。


「急いで上に行くぞ」と声をかけ、半分ほどの味方を連れて上昇装置に乗り込んだ。上には研究員と、わずかな兵しかいない事は分かっていた。

最上階に到着し扉が開くと、研究者たちは既に降参の意志を見せていた。警備の要である階下が落とされ、諦めたのだろう。そして彼らは恭順することを誓った。王女が率いていると言うことで、素直に従ったのだ。彼らから見れば、王子だろうが王女だろうがどちらでも問題ない。どちらも王族なのだから。従うことが使命である。


こうして、僕らの当面の目標は抑えることが出来た。勿論、人間社会には悟られていないだろう。首都破壊の混乱に隠れたことも理由だが、地下社会という我々の場と人間の住む場に隔たりがあるからだ。彼らにしてみれば、地中深くで起きていることを知ることは難しいのだ。

しかし、人間社会に我々の仲間が紛れ込んでいることも事実である。東京を攻撃した国にも紛れ込んでいる。当然のこと、日本政府の中にも紛れている。あくまでも情報収集の為であり、我々の存在が暴かれそうになった時には、全力で阻止させるためだ。我々は長い間、そうやって人間の中に紛れ、時に助言をしたり時に戒めたりと陰で暗躍してきた。すべては、我々の存続を守るためだ。結果、多くの国が滅び、また興ったことも歴史の中の事実でもある。

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