第78話 作戦開始

「やっこさんたち、お出ましだな」

「よし、引き上げるぞ」と安田の報告に小暮は叫んだ。自分らの役目は、敵の兵力を引き付けることであり、大規模な戦闘ではない。都市機能に僅かでも弊害が起こる攻撃で十分なのだ。今回は、俗にいうライフラインの破壊である。静かに侵入し、悟られる前に破壊する。そして駆け付けた兵を引きつけ、逃げるのだ。それを数か所で同時に行う。そして兵が地上まで追いかけてきた頃に、富士の観測所にも攻撃を仕掛ける段取りである。

異変を察知し富士まで駆け付けるとしても、兵力も限られる上に、時間もかかるだろう。それが本作戦であった。小暮たちは警戒所を大いに活用した。警戒所から警戒所へと飛び回り、敵の兵を翻弄していたのだ。ところが……。


「やばいぞ、あれを見てくれ」と、引き揚げてきた警戒所の前で、安田が一行を止めた。小暮がその横へと移動し入り口を見ると、明らかに警備兵ではない一団が辺りを窺っていた。

「どうやらバレたようだな」

「で、どうします?」

「よい。ここは捨てる。ほかに向かうぞ」

「いいんですか?」

「ああ。ここにも兵を割いてくれるとなれば、富士の奇襲もやりやすくなる」

「なるほど。では他部隊と連絡を取ってもっと派手に動きましょう」と、安田はにやりと笑った。それは勝ちほかったような笑いだったのかもしれない。


「やはりそうだったか」と呟き、スタインは激しい言葉を続けた。

「いいか。関東近辺の警戒所に手当たり次第に向かえ。少しでも疑わしければ厳罰に処して構わぬ」と。しかし、この言葉が兵たちに与えた衝撃を、スタインは気がついては居なかった。スタインは予想が当たったことに気分を良くし、細かいことまで気を回せなかった。そして取り戻した警戒所に人員を割いていった。

捨て置かれた兵士たちの間には、すぐに不満が蓄積されていった。警戒所には何もない。人間からは見つからないように隠されているために、何もないのだ。そう、食べるものすら少しも気を使われていなかった。その上、スタインの同胞を見捨てるような言葉が、何もすることのない捨て置かれた兵士たちの思考を占領した。そして『自分もこのまま捨てられるのだろうか』との恐怖とも思える感情に押さえつけられていた。


その頃、東北のほとんどを手中に収めていた望月は、いくつかの警戒所が取り戻されたことを知った。その手は徐々に北上しているようだ。まるでオセロのような攻防戦だが、望月の判断は早かった。

「まだ落とされていない警戒所は捨てるぞ。全員、大阪に移動してくれ」と。

その先、移動ポータルの破壊も命じた。追撃者の利用を防ぐためだ。けれども、王子派にすれば、落とされた警戒所を無視することは出来ない。時間と手間をかけても取り戻していくだろう。何よりも、北上していると言うことは、王女たちもそちらに居ると見込んでの行動だ。そうなれば、富士や大阪の手助けにもなるからだ。

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