第74話 苦渋の決断

 その頃、大阪の開発室の一室で、九条は小林たちの話を聞き終わったことろだった。九条は暫く二人の顔を見れずにいたが、やがて

「わかった。その頼み、引き受けよう」と承諾してくれた。

「すまん九条さん。憎まれ役になるだろうが、未来を考えてのことだ」

「わかっているわ、小林さん。私も未来を見据えてこの作戦に加わったからね。

二人には悪いけど、そっちの方が大事なの」

「ああ。それで十分だ」

「ごめんね、九条さん」と、康子も丁寧に頭を下げた。


「でも、これだけは約束してくれる?」

「なんでも聞くよ」

「できる限り抵抗してね。私は今の二人ならできると信じてる」

「うん。精一杯の努力はするわ」

「存分に抗って見せるよ。それでも無理なら……」

「ええ。その時はその時」と九条は苦笑いを浮かべた。立ち去った二人を見送りながら、九条は自分に言い聞かせた。『今の二人は大事な仲間だ。でも、本性に乗っ取られ、その人格が無くなるならば今の二人ではない。あくまでも敵対するのならば、排除するしかないのだ』と。『でも、晴夫は許さないだろうな』と、落ち込む自分もそこには居た。



そんな気持ちを隠すかのように、九条は武器の制作にのめり込んでいった。とは言え、十分な時間があるわけではない。情報によれば、小暮たちの陽動作戦は順調に進んでいるらしい。各地の警戒所を手中に収めたからこその奇襲が功を奏し、王子派は後手に回らざるを得ないようだ。しかし、王子派も馬鹿ではない。総力戦に出ればこちらは不利になるだろう。それまでに、効果的な武器を作り出す必要があった。


「うーむ、人体に傷を与えずに本体だけへの攻撃か」と、製作チームは九条の案に頭を悩ませていた。器を破壊し、精神体を捕らえることは今の武器でもできるが、それでは王子派はひるまないと考えた。それよりも、器を通り越して精神体への直接攻撃が可能の方が、恐怖に感じるのではないかと考えたからだ。

実際、器が何度壊れようが、精神体さえ無事ならば戦場復帰も可能だが、精神体、すなわち、真の姿ともいうべきものを失う方が、彼らには脅威になるだろう。そんな武器を作りたかったのだ。


「人間の医療機関には、レントゲンやCTなど、器の中身を見れる器具がある。それらを流用できないか?」と、九条はチームの皆に話した。

「人間の技術で作り出せたのならば、我々に作れないことはない。だが、それが精神体に有効かは作ってみなければ……」

「それでいい。とにかく作ってほしい。万が一でも、改良できるだろう」

「わかった。その技術を詳しく調べ、転用してみよう」と、チームは慌ただしく動き始めた。

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