第73話 小暮の激励

 「おう、こいつは助かる」と、望月の参加を止めた男が、送られてきた武器を手に歓喜の声をあげた。

「そんなものでいいか?」と、望月が訊ねると、

「ああ。十分だ。それと、他の警戒所からも暴れたい奴らが来るぜ。腕がなまってなければいいがな」と豪快に笑った。

「あと、優秀な指揮官が来る」と望月が言うと、驚いたような目を向け、

「なに?お前さんら、やることあるんじゃないのか?」と尋ねた。

「ああ。俺はこのまま北に進むが、大阪から一人来る。あちらは落ち着いたみたいでな」


「まぁ、武器を送ってこれるくらいだ。そうなんだろうが……。でも、いいのか?」と、男は望月に訊ねた。

「本人たっての希望だとさ」

「そ。そうか……」と男は歯切れの悪い受け答えをした。

「まさか、死ぬつもりじゃないよな?」

「と、とんでもねぇ。しっかり働いてやらぁ」と、男は言った。

「頼んだ。ところで、あんた名前は?」

「名前を聞かれるなんて何十年ぶりかな」と後頭部を掻きむしってから、

「安田。安田仁平だ」と答えた。

「オーケー安田さん。せいぜい王子派を混乱させてくれよ」

「おう。任せな!」と、満面の笑みを浮かべた。

その時に望月は小暮を派遣した理由に気が付いた。小暮を指揮官にすることで、捨て鉢の彼らに自重させることが出来る。それを考慮したのではないかと。仮に彼らだけで作戦もなく特攻すれば、壊滅するだけだろう。それを彼らも望んでいるように見えたからだ。実際、実働部隊の小暮ならば、警戒所の警備兵よりも頼りになる。適切な作戦も思い付くだろう。そう考え、望月は安心して次に向かうことが出来る気がした。


志願した小暮には確かめたいことがあった。それは、武器の精度だ。母星を侵略した相手に効果があっても、同胞にはどうなのか。と言うことだ。王子派と武力衝突した場合を想定すれば、これは大事なことである。その情報を持ち帰ろうと考えていたのだ。何故ならば、小暮にはどうしても討ち取りたい相手がいたからだ。

それはスタイン。器を破壊するだけではなく。本体の精神体すらも亡き者にしたかったのだ。その昔、小暮の家族はスタインに謀られ、葬り去られたからだ。王子派の頭脳と呼ばれるスタインを彼はずっと狙っていたのだ。

今回の指揮にしても、チャンスがあれば討ち取る気でいた。そんな淡い期待も胸に抱いての志願だった。


「みんな、よろしく頼む」望月の代わりに到着した小暮は、陽動作戦に志願した警戒所の面々を集めると、簡単に自己紹介をした。

「おれらは戦いにはあまり慣れていない。でも、こんな状況には飽き飽きしてるんだ。奴らに一泡吹かせられるなら、好きに使ってくれ」と、リーダーを務める安田が一歩前に出て握手を求めた。

「ああ。我々の動きを悟らせないようにするためにも、派手に暴れてくれ。ただし、死ぬことは許さない」と、小暮は握った手に力を加えた。

「気にすんな。俺らは……」と言いかけた安田の言葉を、

「いや、断じて死なせるつもりはない」と、小暮は厳しい口調で遮った。

「小暮さん……」と安田は、集まった者たちの勢いを失わせるかのような小暮の言葉に、ただ困惑した顔を向けた。


「聞いてくれ、これは今の我々だけの戦と考えないでほしい。この先、我々の未来に関わってくると肝に銘じてくれ。ここにいるみんなが、そんな礎になってほしい」と、小暮は集まった者たちの顔を見回し力強く語った。

「俺たちにもそれに参加しろと?」と、どこからともなく声が漏れた。

「当然だ。君らも我々の同胞ではないか」と小暮の言葉に、その場の全員が歓喜の声をあげた。言わば、捨てられたかのような待遇しかなかった彼らの心に、小暮の言葉が火をつけた。死に場所を与えてくれただけで本望だと思っていたが、安田達にもしっかりと未来が見え始めていた。

「よし!あんたの命令に従うぜ。暴れてやりましょう」と安田を始め、全員が拳を握った。

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