第72話 二人の思惑

 僕は工場の責任者を呼びつけ、

「収納型の武器の余裕はあるか?」と尋ねた。背中に収納するあれである。地下都市を脱出するときにある程度の武器は調達したが、味方全員に渡せるほど、数が揃っていないのだ。王女一行からも連絡があり、こちらに向かうと伝えられていたが、その一行の中には、無防備な味方も多いのだ。


「ええ。それでしたら、最新型があります。威力は保証しますよ」と、でっぷりとした責任者は下卑た笑いを浮かべた。

「それはグロテスクな相手用だろ?」

「ええ。それ以外の武器は作ってませんが」と、責任者は納得に行かないような顔で答えた。

「同胞向けには何かないか?」

「それはここでは作ってません」

「では聞こう。作れるのか?」

「それは勿論作れますが、許可されておりませんよ」

「では、許可を出そう。至急作れ」

「え?」と答えた後に、責任者は顔をこわばらせ、現状を思い出した。そう、ここは王女派に制圧されたのだと。


それと同時に、すべての元凶である憎き獣用の武器も開発をすることにした。これは王子との対話の交渉材料にも成りえるからだ。今の武器でもダメージは与えられるが、出来るならば即座に戦闘不能にできる武器が欲しかった。触手のようなものを多数持つ敵を見たからこそ、即効性が必要だと考えた。現状では数発当てて動きを止められる程度だ。これには、工場で働く技師を始め、多くの者がやる気を出した。彼らにしても、あの凶暴で同胞を食う醜い野獣が憎いのだ。その開発には、戦闘経験のある九条と近藤を当たらせた。


一通りの指示を出した後、僕は与えられた個室に戻り目を閉じた。眠いわけではない。考えることが山積だったからだ。頭の中で現状を整理する。我々はまさに三つ巴の戦いの最中だ。王子派と接点がない今は、何時、グロテスクな昆虫まがいの野獣が来るかは知る術がない。王女が到着した後、富士の観測所に向かう予定であったが、陽動作戦に人員を割かれてもいる。絶対的に味方が少ないのだ。工場の警備兵の中には、恭順を申し出る者も何人か居たが、果たして信じて良いものかと悩んでも居た。そして小林たちの話。僕は頭を抱え、唸り声をあげていた。


「よし。これだけ送れば大丈夫だろう」と、小林は康子に言った。

「そうね。上手くいけばいいけどね」と、康子は額にくっついた前髪をあげた。

「な。なぁ康子……」

「言わなくともわかってる」

「どうすべきかな」

「私たちにもできることを探してみない?」

「と言うと?」

「晴夫が行動できるとは思えないのよ」

「だろうな。あいつの事だ、何とかなると言って先延ばしにするだろうな」

「そこでね。いざとなったら自分たちで対処できることを探したいの」

「例えば?」

「例えば、記憶を戻すときに、いざとなったら自殺するようにインプットするとか」

「あー。敵対したらってことだな」

「そうよ」

「そんなことできるかな?」

「例えばの話よ。だから晴夫じゃなくて、他の人にも頼んでおかない?」

「王女とかか?」

「王女は無理だろうけど、九条さん辺りなら納得してくれると思う」

「九条か。信用できそうだし確かな人選だと思うよ」

「ええ。話せば納得してくれると思うの」

「色々と一緒に見てきたからな。何が重要かもわかってくれるはずだ」

「それじゃ、頼みに行きましょう」

「ああ。九条は開発の担当になったらしい。そこへ行こう」と二人は、九条のいる場所へと向かった。

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