第75話 富士攻略準備

 二人が出した結論など知る由もない僕は、富士山への侵攻を計画していた。我々の目的とも言える施設を手中に落とせば、王子との戦いは更に有利になるだろう。陽動部隊が敵を翻弄している今が、絶好の機会だと言える。

九条たち製作チームが頑張ってはいるが、新しい武器が間に合わなくとも計画を進める気でいた。大阪の工場内にも、王女派に寝返るものが増えてきた。我々の方が有利だと悟ったのだろう。実際に、王子派は押されっぱなしではある。だが、気を抜くわけにはいかない。

王子はともかく、スタインだけは侮れない。それは僕の中に埋もれている王子の気持ちが語っていた。


「陽動部隊と連携した方がいいだろう」と、計画を立案するために集まった場で、小林が言った言葉だ。僕はそれを聞いていくらかは安心できた。あの件に対する心配事を、その言葉からは汲み取れなかったからだ。どちらにせよ、冷静な判断を下している小林の言葉に僕は答えた。


「そうだな。同時に攻める方がいいだろう」そう言うと、

「これを」と、九条が地図を見せた。王女に借りてきた地図には、富士の観測所も載っている。

「かなり高所にあるな」

「でも、入り口は五胡の近くよ」

「警備状況は?」

「聞くところによれば、入り口には警備兵も罠もないわ。人間には見つからないように細工されているから。同胞の中にも、知らない者も多いのよ。問題は、そこから上に登るときね」と、九条は地図を見ながら言った。

有名な風穴の近くにある入り口から、真っ直ぐに富士山に向かい通路が伸びる。そして垂直に登るのだが、そこは既に施設内と言うこともあり警備も厳重らしい。警備を越えれば、観測所に続く上昇装置がある。


「その地点で遭遇は避けられないでしょうね。だから、その時点を見計らって陽動部隊にも攻撃を仕掛けてもらえれば助かるわ」

「仮に連絡が行ったとしても、大量の兵を送れないということだな?」

「それが狙いよ」

「わかった。小暮に連絡を取り、連携できる状態にしよう」

「OK」と、小林。

「それまでに、こちらでも隊列を決めておこう」と言うと、

「私も出来る限り武器の制作を急がせるわね」と、九条が答えた。

奪還する部隊は、小林と康子、そして僕とで選抜していった。康子も小林同様に、あの時のような取り乱しもなく、落ち着いて事に当たっていた。僕はそれを見て、心から安心していたのだ。部隊には、工場の警備兵も加わった。勿論、敵か味方かをしっかりと吟味したのは言うまでもない。

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