第67話 行動開始と第一王子の思惑

「佐久の監視所、制圧完了。同行の大阪組は、ここより移転しました」

「了解。王女を連れてそちらへ向かいます」こうして王女一行も山奥の村を後にした。避難民も多くなった村からの出発は特に問題も起きなかった。村の出入りも激しく、人々でごった返していたからだ。

今まで村の運営を指導してきた立場としては心苦しいが、もしもここで戦闘が起これば、大きな被害を与えることにもなる。王女はそう自分に言い聞かせ、誰にも告げることなく出発した。


日本を攻撃した国は、各国の軍団に包囲されたことに焦ったのだろう。流石に耐えられなくなったようで、世界に向けて声明を発表した。軍人の一派が独断で攻撃したと釈明したのだ。恐らくはそれが事実であろう。王子の息のかかった者たちが起こしたとも考えられるからだ。だが、国家としても上手くいけば日本に一泡吹かせることが出来るだろうと思ったに違いない。だからこそ、多くの国に包囲され、にっちもさっちもいかなくなるまで、一言も発してこなかったのだ。


そんなニュースが流れ、日本国内の混乱は落ち着きを見せ始めた。大規模な戦争に発展する心配もなく、追加の攻撃は行われないだろうとの意見が出始めたからである。



「ふむ。日和ったか」そう呟いたのは、北米アメリカの地下都市に君臨する第一王子である。日本に居る王子の兄であり、もっとも王に近き人物だ。彼は弟の行動をずっと監視し、貶めることを考えていた。勿論、それは弟が謀反を起こそうとしている姿を知ったからである。世界各地に分かれた王族同士は、兄弟とはいえ親しい付き合いをしているわけではない。

だからと言って敵対しているわけでもなかった。互いにけん制し合いながらも、共存の道を歩んでいたのだ。ところが、王の不在が長引くにつれ、そんな暗黙の了解が侵され始めたのだ。それが弟の反乱である。第一王子はそれにいち早く反応し、極秘のうちに策を張り巡らせていたのだ。そして、弟と妹が反目するように画策したのだった。



その頃僕らは、大阪工場に近い滋賀県は石山の警戒所に着いていた。警戒所同士が移転できるようになっており、内部から制圧することが出来たために、掌握すること自体は楽だった。大阪市内にも警戒所はあったが、工場の警備に悟られないようにと、敢えて離れた場所に向かったのだ。


石山の警戒所は、かつて琵琶湖の地下にあった都市の入り口でもあった。その頃の日本は、京都が政治の中心であったためだ。基本的に、人間の政治には口を出さない主義だが、軌道修正は稀に行われた。東京への遷都もそうだ。


昔は山の洞窟や自然に隠れた入り口だったが、繁栄と共にそれらは人工物に隠れるように変えられていった。その多くが、地下道への移転である。地下鉄が張り巡らされた都市では、恰好の隠れ蓑になる。


地上へと出た後は、そのまま徒歩での移動となる。攻撃を受けていないこの地域は、厳しい警戒網が敷かれていたが、交通網は普段と変わらずに機能していた。それでも、日本の首都を攻撃されたとのショックは多大であり、人々の顔から笑顔は失われていた。僕らはバラバラに電車に乗り込んだ。


少しでも人目を避けるためである。この人目というのも、勿論、彼らの目である。通勤通学の人の群れに混ざれば、普通の人間にはなんの違和感もないだろう。けれども、彼らには瞬時に見つかってしまう。助かるのは例え離れて歩いていても、互いに意思疎通ができることである。それにより、バラバラに移動する者でも、一つの意志によって迷うことなく済むのだ。


京都まで東海道線に乗り、そこから京阪電車の乗り換えた。子供の頃の記憶とは、京都駅はかなり変わっていた。近代化しそして巨大化しているように感じた。新聞を広げるサラリーマン。携帯に見入る学生やOL。そのすべてが、東京でのニュースにくぎ付けだった。そんな彼らを横目に、僕らは黙って揺れに身を任せていた。

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