第64話 兄との確執
地下都市から逃げ出すときに、ある程度の武器も調達してきた。その上で、村のはずれの家屋で、新たな武器も作り始めた。我々にはその知識がある。そこでまずは武器を作り出すための道具作りから始めた。
また戦時と言うこともあり、防衛施設も作った。元から住んでいた村人たちは納得できないような顔をしていたが、実際に被災した避難民からは、すんなりと支持を得ることができた。
まさか上陸されるとは考えてはいないようだが、用心することに越したことはないからだ。
そんな避難民の中にも、残念なことに赤い靄の人も混ざっていた。恐らく、放射能に冒されたのかもしれない。ニュースでは連日、戦争の話で埋め尽くされた。日本を攻撃した国は、連合国によって包囲され、身動きできない状態だ。
破壊された首都近辺には、各国から救援部隊が到着していたが、大きな成果を挙げることに至っていないようだ。それには、王子も焦りを見せていた。
「これでは次の攻撃手段がないではないか!」
「ここまで固められては……」とスタインも眉をひそめた。首都を襲った攻撃は、王子の意向に賛同した者たちによってなされていた。他国にもある地下都市の者たちだ。その者たちは、政治の世界にまで人間の振りをして紛れ込んでいるのだ。あとは、扇動するだけだった。しかし、一旦は上手く扇動できたとしても、現状を打破できるだけの策もなく、王子の要請を実行できない状態だったのだ。
「あてには出来んか」
「ええ。すべてを掌握しているわけではないので、期待は出来ないでしょう」
「で、スタイン。ほかに手はあるか?」
「局地的な地震を起こすことも可能ですが、王女らの居場所が掴めない以上、後々を考えるに有効ではないかと」
「ふむ……。将来の器を減らすことになる。と言うことだな」
「そうです。仮に発見するまで地震を起こし続けた場合、この国の人口は壊滅的なまでに減ることでしょう。そんな折に奴らからの攻撃でも受ければ……」
「うむ。兄上にとって都合が良いな」
「いかにも」と、スタインは静かに頷いた。王子の兄は、北アメリカの地下に巨大な地下都市を築いている。しかも、ここよりも人口が多く、また器を集めるにも便利な国だ。跡目争いになれば、そう言った項目でも有利になる。
「どうしたものか……」と腕を組む王子に、
「やはり、地道に探すのが得策でしょう」と、スタインが言った。そもそも、クローンを廃止した理由が、アメリカから始まったことを、懇意にしてるアメリカの貴族からスタインが聞いたからだ。それに倣い、日本でも始めたわけだが、状況が違い過ぎた。日本とアメリカでは平和の度合いが極端に違う。遺体の処理方法からして違うのだ。日本では火葬が当たり前で、再生するにも限度がある。土葬の多いアメリカとは比べものにならないほどに入手は困難なのだ。
その為、適当な時期に地震などを起こしてきたが、奴らの侵攻が激化しはじめ、今回の大量殺戮に至ったのだ。世界の行方不明者のほとんどは、彼らの所業である。
「よし、各都市にチームを派遣しろ。なーに。姿さえ見えれば逃げようがないのだからな」と、王子は笑った。
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