第62話 逃避

 一旦、部隊が集まる部屋へと僕は戻った。、一人で小林たちの捕らわれているところへ乗り込むには不自然だからだ。王女ならば一応は血縁者であるために、一人で出向いても問題はないが、小林たちではそうは思われない。


僕は適当な理由を作り、二チームを同行させることにした。思った通り、誰も疑いもせずに小林たちと面談でき、彼らを助けることに成功した。そして、王子しか知り得ない部屋へと彼らを集めた。同行した二チームには、残念だが途中で退場を願った。

流石に不審がられ、始末するしかなかったのだ。しかも、秘密の部屋まで知られてしまった以上、他に道はなかった。


警備の者には『これから内密に始末する。他言無用だ』と言い含め、王子の威光を存分に活用した。警備の者も、捕らえられた者たちは始末されるだろうと薄々は感づいていたようで、すんなりと牢を開けてくれた。


当の王子にその話が伝わった時には、すでに王女も救い出し。我々は地上に向けて逃げ伸びていた。この器が僕の手中にある限り、あの部屋は開かない。新たな人間が器にされることはない。今は自分たちの安全を確保することに専念した。



「一体どういうことだ!」王子が怒りを露わにし、スタインは眉間に皺を寄せ警備責任者を見つめていた。

「兵の話によれば、王子自らいらしたとかで……」と、王子に呼び出された警備責任者はしどろもどろに答えた。


「余との繋がりも絶たれている。奴めどんな細工をしたのだ」と、玉座に座る王子はわなわなと震えた。名目上、捕まえた者は全員が器の交換と言うことになっていた。それはほかの貴族たちへの建前であり、王子は処刑するつもりでいた。


王女と晴夫に好き勝手させていたのも、反体制派を炙り出すためであった。その上で、機械ミスなど理由をつけて抹殺する気だったのだ。スタイン曰く『王子が王になる前に反乱分子を始末するべき』とのことだった。教育係であるスタインの言葉を信じ切っている王子は、その提案を素直に受け入れたのだ。王子の目には王になった時の自分の姿しか見えていなかった。しかも、王女らが反乱行動を起こした時には歓喜したほどだ。そしてスタインの言うことに間違いはなかったと更に信用を深めるようにもなっていた。


「王子、追跡しますか?」とスタインが訊ねた。

「どこを探せば良いと言うのだ?非常時ではない今、自らの意思で回線を切断している者の位置なぞ掴めんぞ」人間界に送り込まれた者は、当初、人間の記憶だけで生活を送る。そして非常時には自動的に本部と結ばれる仕様になっている。この時に、すべての記憶を取り戻し、器となる人間を回収、修理するのだ。色のついた靄が見えるのは、回収可能な者に目星をつけるためである。


「ならば、非常時を起こせば良いのでは?」

「ふぅむ。本部との自動回線が復帰するやも知れんな。だが、遠く離れていてはそれも無理な話だぞ」と答えたが、暫く考えてから、

「だが、やる価値はありそうだな」と、王子は薄ら笑いを浮かべた。


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