第61話 王子の振舞い
その後僕は、何食わぬ顔で部隊へと戻った。それが王子の指示であり、拒否すれば疑われるからでもある。この器の居場所であり、持ち場である部屋に入ると、見た者は最初驚きを隠せなかったようだ。当然のこと、反乱に加担していたことを皆が知っているからだ。けれども、王子であると分かると、その態度は一変した。
なにしろ、あのスタイン議員が同行してきたのだ。身の証には十分すぎるだろう。王子もそれを理解した上で、同行させたのだ。彼はまだ僕を完全には信用してはいないようだが、存在は大いに役立った。
なにしろ残っている兵士は、王女の呼びかけに答えなかった者たち。言わば王子側の者たちである。前面に出ている王子もそれを隠そうともしなかった。
『我は王子である』と意気揚々と語ったのだ。そのお陰もあり、懐疑の目を向ける者もなく、自由に振舞うことが出来た。僕は王子の精神を巧みにコントロールし、思う通りに動かすことが出来た。当の王子はそんなことを知りもしないだろう。やがてスタインも諦めたかのように自分の居るべきところへ戻っていった。
『さて、これからが問題だ。まずはみんなの居場所を突き止めなくては』と僕は行動を開始した。近くの兵を捕まえ、王女の居場所を尋ねた。
「いえ。私にはわかりません」との答えが何人かから返された。警備員の方が知り得ているかもと部屋を出て、彼らが詰める部屋へと向かった。そんな僕を引き留める者など居ないのも当然だ。なにせ王子なのだから。
しかも、王子の精神に対して、王女と話がしたいと思わせた。勿論、他の王子に動きを悟られないように、カムフラージュも施した。きっと僕の管理下にある王子は、自らの意思で行動していると思っているはずだ。
警備の者から聞き出した場所に、王女は捕らわれていた。けれども、小林の念話は届かなかったらしい。そこで僕は王子を眠らせた。この先の会話を聞かせるわけにはいかなかったからである。
「なにようですか?」と格子越しの王女はそっけなく返事した。当然だろう、今更会いに来る理由を思いつかなかったからだ。
「いいえ。王子ではありません」と、王女の敵意に満ちた言葉にそう答えると、
王女の目がキラキラと輝きだした。しかし、すぐに鋭い視線に変わり、
「何が言いたいのですか?」と聞き返してきた。王子の策略ではと疑ったのだ。狡猾な王子の策略のほとんどは、スタインの助言に依るところが大きい。それを懸念し警戒を解こうとはしなかったようだ。
「僕は晴夫です。王子の精神体も同居していますが、僕も残っています」と、出来得る限り優しい口調で答えた。
「え?どういうこと?」と、王女は少し身を引いて訊ね返してきた。
「何故かはわかりませんが、この器には二つの意識が存在します。しかし、僕の方が強いようです。王子の精神体はコントロール出来ています」
「何ということでしょうか」と王女は目に涙を浮かべた。救いの手が差し伸べられたと咄嗟に思ったのだろう。
「それよりも、みんなを助ける必要があります。王子は元である精神体を処分するつもりのようです」
「再統合ではなく?」
「ええ。残念ですが抹殺する気です。見せしめでしょう」
「どうしましょう」と、王女は両手で顔を覆い、力なく座り込んだ。
「みんなの居場所を教えてください。助けに向かいます。念話を送れますよね?」
「ええ。それは出来ます」
「では、僕が向かうことも伝えてください。助けなくてはならない人数も多い。急ぎ念話網を構築してください」
「分かりました」と王女は震える両手を握りしめた。
「恐らく、我々よりも彼らの方が早く処理されるでしょう。急ぐ必要があります。王女は、皆を助けてからになりますが、それまでは念話を送り続けてください」
「わかりました。それと貴方にも私と通話できるようにします」と言うと、王女は僕の頭に手を乗せた。何かが送り込まれるのが伝わった。器に入っているときには、これが効果的に繋がる手段のようだ。
「では、僕は行きます」
「お願い。みんなを救って」と王女は力強く頷いた。小林と康子の居場所は分かっている。これからは王子の精神体を面前に出すわけにはいかない。ずっと眠ってもらうしかない。
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