第59話 開かれた秘密の部屋

 王女と僕らに与した者は、一人残らず再統合されるだろう。そのためにも大量の器が必要になってくる。王子は迷わずにあの部屋へと向かった。やがて僕以外の二体も合流し、四人の僕が集まった。それは奇妙で不思議な光景であり、また不気味でもあった。今の僕は、王子の意思を前面に出し、晴夫の意思は静かに身を潜めその行動を見ている。


今は表に出ない方が得策に思えたからだ。小林と康子、王女と仲間たち。彼らを助ける算段を取ってからでないと、無駄な抵抗に終わるからだ。僕ら四人は部屋の隅のアイスキャナーの前に立った。そして同時に網膜のスキャンが行われ、金属の軋む音が部屋の中にこだました。


すると中央の床が割れ、階段が現れた。広い階段を降りた先には、更なる広大な部屋があり、無数のカプセルが並んでいた。中には人間が保管されていたのは予想通りだった。王子の意思を読むと、それらは戦争で死んだ者たちや、災害や事故などで無くなった人間の肉体だと分かった。


確かに再利用と言って間違いではないだろう。彼らが殺めたわけではない。死んだ魂の抜けた肉体を利用しているだけだ。だからと言って、死者に対する尊厳は何処にもない。尊厳も人間が勝手に作り出しただけで、精神体である彼らには理解しがたいことでもあるようだ。

しかし、これだけははっきりと言える。言い方には語弊があるが、人間にも肉体以外の何かが存在する。それを魂と言うか、彼らのように精神体と言うか、それは後に誰かが名付けるだろう。僕らは三人の魂が結びついたことで、強固な形でこの世に残り、再生された肉体に戻ったとしか思えなかった。それでも、王子が言うには『過去にも何度かそのような実例が存在していた』らしい。そして不思議な能力も持っていたそうだ。周囲を気にしながらも、僕は一つの試みを起こした。


『小林?』

『え?もしかして晴夫か?』と、暫くしてから反応があった。

『ああ。さっきは悪かった。奴らを騙すために君らにも嘘をついた』

『まてまて、本当なのか?心配……。いや、これまでだと観念していたところだよ。そうか、そうか……無事だったのか。安心したよ。それより、お前も念話が出来るのか?』かなり早口だが、言葉には喜びが徐々に見えてきた。


『小林の言葉も僕には届いているよ。だから僕だけじゃない』

『そ。そうなんだ』互いに能力がなければ、一方通行の会話になるはずだ。小林はそのことに気が付いた。

『恐らく、康子にも通じるはずだ』

『分かった。俺が試してみるよ』


『ああ、頼む、僕は例の隠された部屋にいる。念話をしていると悟られる心配があるから、小林に一任する』

『わかった。で、やっぱりそうなのか?』

『残念だが、信じられない光景が目の前に広がっているよ』

『くそっ。いいや。王女にも送れるか試してみるよ。気をつけろよ』


『ああ。そっちもな』と、僕にも特別な能力があることは実証された。はたして、王子よりも有利な状況とは言え、感じ取られる可能性は否定できない。だからこそ目の前の光景を見ても、僕は取り乱すことなく平然を装った。内心では怒り心頭だったが……。

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