第57話 人類の誕生

「う、嘘……」

「なんだって!」これには全員が驚きに声を上げた。断片的な記憶しか戻っていない僕も、こればかりは想像しなかった言葉だ。そんな声を無視するかのように、王子は淡々と話を続けた。


「我々がこの地に辿り着いたとき、ここには大きな爬虫類や巨大な哺乳類などが生息していた。彼らは力も強く、襲撃者を追い払うには役立った。だが、繁殖力が弱すぎた。知能が低すぎた。だから我々が人間と言う生物を作った。ある程度の知力を備え、放っておいても繁殖する種を作ったのだ。その人間は、我々精神体が入り込むにも適した大きさであり、手先の器用さもあった。だから世界各地で量産した。と我々の歴史には刻まれている」と言うと、王子は反論は許さないというような強い視線で周囲を見回した。王子の話が本当のことならば、人間の身体を再生することなど朝飯前のことだったろう。周囲の反応を確信したあと、王子は話を続けた。


「最初は数の少ない人間を守るためにも、クローンを使っていた。そして色々と教え込み、彼らの生活を豊かにした。やがて我々が管理せずとも、独自の文明を作り上げ、人間の数は飛躍的に増えていった。ところが、人間同志で諍いを始め、滅亡する種まで現れた。人間が争いを好むとは誰も思っていなかったのだ。だから我々は更なる発展を遂げさせるために尽力した。けれども、結果は同じだ。それは今、この時代まで続いている」

王子の話には、僕を始め誰も反論できる者はいなかった。ダーウィンの進化論も異議が唱えられている昨今、人類の進化はほかの生物の進化と比べ、とてつもなく早いことを挙げている。そこには何かしら別の力が作用したというのがその推論だ。

その別の力こそが、地球外生命と唱える学者も多い。その地球外生命が、目の前にいる王子や僕らだとはっきりと言ったのだ。

この説に反対するのは、宗教的な関連性を指摘している。要は『神が創造した』との教えを頑なに守るためとも言われている。そうならば、信憑性は低い。これらの説のどちらが正しかったのか、今まさに答えが出たようだ。

また、僕が知りえる歴史の中にも、多くの戦争がある。独裁者により虐殺がある。宗教の違いによる迫害もある。それは現在でも続いている。誰一人として言葉を発しないのを見て、王子は話を続けた。


「それでも人間の繁殖力は強くてな、人口だけは爆発的に増えている。そんな中で、死んだ者の肉体を我々が再利用しても咎められるだろうか?人間同士の諍いの中で死んだ者を、我々が利用して非難されるのだろうか?」と王子は、呆れたようなそぶりを見せた。


「それじゃ、僕らは?」

「この身体の持ち主と、そこの男と女は、かつて同級生とかいうものだったらしい。とある事故で同時に死んだのだ」と、小林と康子を指さした。その言葉を聞いて、二人は僕を見た。そうだ。思い出した。僕ら三人は、雪山で遭難し、凍死したことを。確か、サークルでの登山だったはずだ。そのことを二人に告げると、小林はうなだれ、康子は涙を流した。


「だから学校などの記憶が同じだったか。でも、いつのことだ?」

「その身体から魂なるものが消えたのは、三十年ほど前のことだ」

「道理で、実家が見つからないわけだ」クローンだとしても本体だとしても、時間を開けてしまえば、誰からも疑われることなく、利用できるというのは想像通りだった。年月が開けば開くほど、知人なども減るからだ。


「で、人間の魂は精神体とは違い、どこに行くのだ?」と呟くと、

「それは知らん。私も最初は人間がそう呼ぶだけで、記憶も感情もすべてが霧散すると思っていた」

「最初は?」


「そうだ。先ほど、この身体は三体だと言ったな?お前の身体こそがその三体の本体そのものだ。それが、私の制御を破り、自由に動き出した。霧散すると思っていた記憶や感情を取り戻してな。だから、好き勝手を許していたのだ。そこから魂なるものを理解できるのではないかとな」


『そうだ。僕は自分の意思を持っている』

『王子の精神体が統合されても尚、晴夫という意思が残っている』けれども、王子の思惑に乗っていたのは事実だ。

「それじゃ、すべてが掌の上で踊っていたと言うことか」と呟くと、

「どうじゃ?納得したか?」と王子は勝ち誇ったように笑い出した。

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