第54話 胸の痞え

 警備兵に扮した仲間と合流した僕らは、目立たぬように、時に遠回りしながら移動を繰り返した。ある時は、警備兵の振りをしながら堂々と、またある時は隠れながらと臨機応変に移動し続けた。小倉からの報告もあり、慎重に慎重を重ねた。どこで敵と鉢合わせするか分からないからだ。

無事に戻れた僕らを、王女を始め皆が喜んだ。小倉たちも合流し仲間も増えた。

皆が喜びの感情を露わにしているとき、僕の胸には何かが詰まったように息苦しく、同じように喜ぶことが出来なかった。


「どうした?」と小林が僕の顔を覗き込んだ。

「え?いや、べつに」自分でも理解できない感情を、説明できるわけがない。

「そうか?なんかおかしいぞ」

「……うん。なんかしっくりこなくてな」

「なにが?」それに康子が加わった。

「何かが胸に引っかかるんだ」この言葉が今の僕に言える全てだ。どんなに言葉を選んでも、行きつく先はその言葉だけだ。しかも、その理由さえわからない。そんな気持ちが、素直に喜べない理由なのだろう。


「記憶が戻ったら解決するんじゃない?」と康子は言った。恐らくそうなるだろう。胸の痞えの理由が取り除かれ、気持ちは晴れるはずだ。と、僕も思いたかった。

とりあえずは、各チームの報告を集めるために、それぞれの代表を集めた。そして今後の行動として、更なる仲間の確保と、別の基地の確保が挙げられた。この場所がバレた時のためだ。いくら広いとは言え、かなりの人数が集まったからでもある。それと、僕らの記憶を戻すことも議題となった。記憶を取り戻せそうな装置がある場所もはっきりとしたのも理由だ。


そんな会話が流れる間、僕は集まった人々を眺めていた。最初、九条たちと行動を開始したときからは、想像もつかないほどに増えた仲間を、僕はただ眺めていた。そして胸の痞えがが大きくなるのを感じていた。着々と戦える準備が揃ってきているのに、どこかで否定している自分がいるような、何とも言えない感情に苛まれていた。


「どうした?」と小林が顔を覗き込んできた。

「え?」

「え?じゃないよ。聞いてたか?」

「あっ……。ごめん」

「まったく……。記憶装置に再度チャレンジってことになった。いいか?」

「あっ、ああ。構わない。僕も早く記憶を取り戻したい」

「よしわかった。では、その任務以外の者は、今言ったように仲間の確保や武器の確保に専念してくれ。あとは新しい隠れ家の捜索と選定だ。以上」と小林が締めくくった。

「わるい。ごめん」と言いながらも、どこか、危機感を感じない自分に驚いていた。

「いいさ。ずっとお前に甘えたままだしな」と、小林はニカッと笑った。そんな僕らに、王女の寂しそうな眼が向けられていた。

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