第53話 露見

「くっ」と唸り、男は暗い部屋の中で目を覚ました。暗闇の中で立ち上がると、目が回るような感覚に襲われたが、壁伝いに歩くと明かりのスイッチを見つけた。パッと光る明かりに目が慣れてくると、数人の部下が床に倒れていた。そこで男は思い出した。『襲われたのだ』と。巡回兵のリーダーだった男は、すぐに意識を本部に飛ばした。それから目を覚まし始めた部下を連れ、廊下に出ると脱兎のごとく走りだした。


「問題はなかったか!」と駆け付けた巡回兵のリーダーが大声で叫んだ。

「いえ。特になにも」と警備兵に扮した仲間の男が答えた。手はコンソールに添えている。これは既定の行動であり、しなければ逆に怪しまれただろう。

「巡回は通ったか?」とまたも大声で聞かれ、

「ええ。先ほど通りましたが」と答えると、頭を抱えた二人の兵を引っ張り、大声を出し、

「反乱者が近くにいる。気をつけろ!」と一言残し、走り去っていった。


そこのとはすぐに念話によって近藤に送られた。

「急いで。巡回が目覚めたらしい」と近藤が伝えた。

「思ったより早いな」と答えると、

「肉体と精神は別だからな」との答えが返って来た。身体に与えたダメージは、人間よりも伝達が少ないのだろう。よく言われるショック死などは無いに等しい。だからこそ、肉体の再生も可能になったのではないだろうか。人間のように出血によるショック死などがあれば、再生など無理な話だ。僕らが受けた爆風で建物が崩壊するくらいだ。この肉体がどんな状況になったかくらいは容易に想像できる。


「そこよ」と九条が示した部屋には、多くの研究者らしき者が動き回っていた。

彼らは僕らを見てもなんの表情も浮かべなかった。単なる巡回と思っているようだ。暫く観察していると、急に慌ただしく動き始め、研究者たちは部屋から逃げ出し始めた。

「本部にバレたようね」との九条の言葉で、部屋に入るのを止めた。

「逃げよう」そう言って僕らは走り出した。同時に、警備に扮した仲間にも伝えてもらい、撤退することになった。けれども、収穫はあったと実感していた。

何故ならば、研究者たちにはたいした自我が備わっていないように感じたからだ。逃げ出すときにも彼らの顔にはなんの表情も浮かんではいなかったのだ。


その頃小倉のチームは、雑談でもするかのように仲間内の間を歩き回っていた。

そうやって何気ない会話をしながら、仲間を募っていた。その数は、六チームほどまで増えていた。意思疎通を図れる仲間もなくなり、小倉は同意したチームに思念を送った。『ここから出る』と。

その思念を受け取った者は、ゆっくりと小倉の元へと集まり、何食わぬ顔で部屋を出て行こうとした。


「ちょっと待て。どこへ行く」小倉たちの後ろから、鋭い言葉がかけられた。立ち止まった小倉が振り向くと、見たことのない兵士が数人立っていた。その手には武器も。

「次の任務の打ち合わせだ」と、小倉は答えた。しかし、その声はわずかに震えているようだ。

「そんな命は出ていないはずだが?」と、声をかけた男はにやりと笑った。

すると、小倉が最後に声をかけたチームが、その男に飛び掛かった。

「今のうちに!」と言う叫びに、小倉たちは一斉に走り出し、部屋を飛び出した。

「くっ、やっぱり紛れ込んでいたか」と、小倉は悔しそうに吐き捨てた。けれども、身を挺して逃がしてくれた仲間のためにも、我々の基地に無事帰ると心に決めていた。小倉たちの部隊が居た部屋は騒然となっただろうが、それを確かめに行くわけにはいかなかった。

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