第51話 慎重に行動開始

 報告によれば望月のチームは、順調に仲間を増やしているようだ。しかし、九条たちの部隊では思うように集まっていないらしい。所属部隊の違いなのだろう。

それでも同意し、仲間に加わる者がいるだけでも心強いと言うものだ。人間界同様に、ここも一枚岩ではないと言うことだろう。目立たぬように集まってはくるが、全面的な交戦になればひとたまりもない。仲間を増やす上でも、クローンの実態を掴む必要性に迫られていた。大半の者は、器イコール人間説を信じていないからだ。


「人員は心もとないが、行動を開始しよう」と、僕は九条たちに提案した。と言うのも、寝返った警備兵からの情報により、場所も警備状況もある程度は把握できたからだ。幸いなことに、その近くに記憶を戻せそうな施設もあるらしい。器と統合したのちに記憶を操作する場所らしく、そこならば記憶を戻すことも可能ではないかと言う報告を受けた。


「ええ。これ以上ははっきりとした証拠が出ない限り、こちらに付く者は増えないでしょう」と、九条も同意した。精神体での僕らの寿命は長い。けれども、喰われて消滅ことからもわかるように、消滅するのは事実だし故意に消滅させることは可能らしい。実権を握っている王子派が『反逆者』とのレッテルを集まった仲間に貼れば、それこそ公に処罰できるのだ。証拠を表示できない現状では慎重になっても致し方のないことだ。


行動チームは三チームに限定した。大勢が動き出したら察知される可能性も高い。なるべく隠密な行動をとる方がいいだろう。報告によれば警備兵の数はそれほど多くはないらしい。ただ、施設の入り口には、防御装置として武装されているそうだ。勿論、これはあのグロテスクな虫を相手に想定したものだが、僕らもまともに食らったらただでは済まないようだ。精神体を破壊されなくとも、器が壊れれば動くことさえ出来なくなるからだ。警備の者が防御装置を起動する前に、無力化する必要がある。そのためにも、大勢で押し寄せるわけにはいかなかった。

僕らは警備兵の制服を身にまとい、巡回のふりをして近づく。そのためにはまずは、本物の巡回を始末することにした。それも報告されており、人数、経路など把握済みだ。


僕ら三人はとある部屋に身を隠した。九条たちのチームは向かいの部屋に隠れた。寝返った警備兵のチームが、巡回が来るであろう廊下に待機した。

掌に汗が滲むのを感じながら、静かにその時を待った。

やがて数人の足音が聞こえ、待機していた警備兵チームも動き出した。

向かい合った警備兵たちと巡回は、互いに敬礼を交わしゆっくりとすれ違った。

巡回のリーダーらしき男は、一瞬、怪訝な表情を浮かべたが、何事もなくすれ違ったことで安堵した様子を見せた。その時だ。


「あー、反乱の話は聞いてるか?」と寝返った仲間の警備兵が声をかけた。

「うん?」とすれ違った巡回の男が振り返り眉をひそめた。

「俺たちはそいつらを探して回ってるんだが」

「いや、見かけてはいないが。どうせすぐに鎮圧されるだろうよ」と男は返した。その静かな返答とは裏腹に、銃らしきものの引き金にはしっかりと指が掛けられていた。


「そうか。何か見たら報告を頼む」

「ああ。わかった」その言葉を聞いて警備兵が歩き始めると、巡回の男は安心したかのようにため息を漏らした。器という取り換え可能な外見からは、敵と味方の区別がつき難い。それが緊張の原因だろう。警備兵が歩き出すのを確認してから、巡回の警備兵も歩き出した。そして五歩ほど離れた時、僕らが部屋から飛び出した。


丁度、巡回の兵たちの両サイドだ。十人ほどの巡回兵たちは、そんな強襲に対処できずにいた。慌てて銃を構えるが、僕らの攻撃の方が早かった。後部の方に居た巡回兵は銃を構えることが出来たが、すれ違ったはずの警備兵に後ろから襲われ、その場に崩れていった。先頭を歩いていたリーダーらしき男は、九条チームの鋭い攻撃に敢え無く撃沈。すぐに隠れていた部屋へと気を失った巡回兵を引きつり込んだ。こうしてまんまと僕らは巡回兵へと化けた。その間、わずかに15秒ほどだろう。たいして物音も立たずに、誰かに察知された様子もなかった。その後、僕らは巡回路に沿って、クローンを製造しているであろう場所へと近づいていった。本当に製造しているならばだが。

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