第35話 協力者
「あの二人は?」と、今は姿が見えない二人のことを尋ねると、
「今はメンテナンス中よ。かなり酷使したからね」と、九条は答えた。気力が切れて攻撃が出来なくなったことと関連するのだろうか。
「君はしないのかい?」
「口頭報告は終わったけど、メンテナンスは不必要と言われたけど」
「そっか。信用されてるんだな」
「どういう意味?」
「口頭報告で信じてもらえるんだろ?」
「一応、部隊の指揮官だし、ある程度の信用はあると思ってるわ」
「なるほどな、それに監視の目もあるしな」
「そうね。非常事態になった時、記憶の再起動が始まったところで、本部は私たちの行動を把握できるようになるわ」
「ちょっと待って、それじゃ、僕らのことはどうしてわかったんだ?」
「再起動されたあと、送られてくるはずのシグナルがなかったからでしょ」
「じゃ、僕らを探していたのか?」
「そうよ。初期配置から割り出して、大体の位置情報を送って貰ったのよ」
「なるほど」と返しながら、九条と行動を共にすると、位置が知られる心配はありそうだと考えた。けれども、勝手知ったる九条の協力は是非とも取り付けたった。今の僕らには、全くの未知なる場所だからだ。
「悪さは出来ないってことだな」と言うと、
「ちょっと、気になる言い方ね」と、九条は明らかな不快感を示した。これが僕の狙いでもある。九条にしてみれば、悪さをする時間も余裕もないからだろう。事実、二度も襲撃を受け、かろうじて無事に帰還できたのだ。
「だってそうだろ?部下の二人は調べられるのに、君には何もしないなんて」そんな九条の不機嫌さを無視するかのように畳みかけた。
「調べるって、器のメンテナンスよ?」
「本当にそれだけだと思うのか?」
「どういう意味よ」
「君らは、記憶すらも操作できるんだよ。今までの出来事を記憶の中から探し出し、確認することだって出来るんだよ」
「そうよ、だからなんなの?」
「確認もできるし、改ざんもできる」と言ったところで、九条の顔つきが変わった。
「信用してないのね」
「君ではなく、ここの奴らをね」
「なんでよ、同胞でしょ?」
「その同胞がミスを犯したんだ。信用できるわけないじゃないか」
「ミスは今までもあったわ。仕方ないことなのよ」
「三人揃ってミスるのも普通なのか?」
「部隊の三人は同時にインプットされるからそのせいじゃないの?」と答えつつも、九条の中にも小さな不安が沸いていた。確かに今まで会った不良品は、チーム全員がそうだった。果たして、自分でも言ったようにあり得るのかと。
「それを信用するには情報が足りなすぎる。何よりも、僕らは何も教えてもらってもいない。同胞ならば、色々と教えてくれるはずだよな?」
「もしかして、ミスは故意だった。と思ってるわけ?」と、九条は僕の言わんとすることを察知したようだ。
「そうだ」
「いいわ。同胞の名誉のためにも誤解を解いてあげるわ」と、九条は半ば意地のような気持ちで受け答えた。事実は、九条も知りたかったのかもしれない。
「上層部が何らかの決定を下させば、それも無駄になるよ?」
「いいわ。無駄だろうが私の気持ちが許さないの」
「で、何を手伝ってくれるんだ?」
「記憶を取り戻してあげる」
「できるのか?」
「保証はないけど、試す価値はあると思う」と言う九条の顔は自信に溢れていた。
「よし、九条を信じよう。記憶を取り戻してくれ」九条はまんまと誘導にのっかり、自ら協力することを申し出た、彼女を怒らせたのも、自尊心を傷つけたのも、それを引き出すためであった。仮に彼女がなんらかの指示を受けていれば、こんなことは言い出さないはずだ。だからこそ、なんとしても言わせたかった。
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