第36話 超能力?
上層部の決定がいつ下されるのかと緊張の度合いは増すばかりだ。決定が下り、処置されることを恐れたからだ。今は、九条の働きが僕らの運命を変えると言っても過言ではない。その九条は、準備があると暫く前に立ち去った後だった。
焦りと怯えが混同したような気持ちを抱えつつ、僕らは隅の椅子で待っていた。
ようやく表れた九条は、近藤と秋葉も従えていた。彼らも手伝うらしい。そして九条の後について立ち去ろうとしたとき、あの検査を行った技師が近づくのが見えた。
「きた。さっきの技師だ」と言うと、
「いいわ。気付かれないようにいきましょう」と九条が言った。九条としても、ここで連れていかれ処置をされれば、同胞の名誉を守る機会をなくす。けれども、本心では、三人への興味に負けていたのだ。そして本人は気が付いてはいないが、同胞への疑惑も小さく芽生えていた。
案の定、技師は僕らが座っていた椅子のところまで来ると、辺りをキョロキョロと見回し、困惑したように首を傾げた。その姿を視線の隅に捕らえながら、僕らは広間を出て行った。広間を出ると、沢山の扉が続く長い通路に出た。
「どこに行くんだ?」
「仲間のところよ」
「仲間?」
「ええ。私たちと同じ、実行部隊よ」
「その理由は?」
「私は、あなた達を知らないけど、知ってる人はいると思うの」
「どういう意味?」
「あなた達の戦闘を思い出してみて、かなりの実戦経験があるとみたのよ。それならば、あなた達を知る仲間が居ても可笑しくはないからね」
「僕たちは初勤務だと思っていても、実際は何度も経験しているのかも知れないということだね?」
「そう思えるほど、あなた達の射撃の腕は確かだったわ」と、九条は笑った。
話によれば、実行部隊は大きく分けで三つに組み分けされているらしい。その一つに九条たちは配置されているが、そこだけでもたくさんのチームが存在している。それがほかの部隊となれば、接点も少ないために存在すら知らない仲間も多いそうだ。九条は、僕らもそんな別の実行部隊の一つのチームではないかと考えたようだ。
「自分の部隊でも、すべての人員を把握しているわけではないの。任務中は器に入ってるし、戻れば休息するし。互いに知り合う機会も少ないのよ」
「ああー。カプセルか」
「そうよ。だから同じ実行部隊に所属してても、知らない仲間もいるのよ」
「もしかして、同じ部隊と言うこともあり得るわけだな?」
「あり得ないことではないわ。でも、接点がなくとも噂だけは耳に入るから、
その中であなた達のようなチームは聞き及んではいないの」
人間の軍隊を例に挙げてもそうだろう。小隊は元より中隊程度ならば、全ての兵士仲間も知っているかも知れないが、大隊や師団ほど大きくなれば、知らない兵士も多くなるだろう。その為に、師団ワッペンや独自のマークを使っていると聞く。
「じゃ、他の部隊を訪ねるってことだな」
「一応は私の所属する部隊にも顔を出すけど、他も当たるつもりよ」
「それからどうする?」
「相手の反応次第だけど、知ってる者がいれば、記憶を取り戻すきっかけを作れると思って」
「でも、器にはいってるのに、分かるのか?」
「ええ。本当の知り合いならば、会えば分かるはずよ」
「そうか。少しは期待できそうだな」本当の知り合いとは、本来の姿、精神体のみの存在時と言うことだろう。
「気になったのだけど、精神体のみの時はどうやってコミュニケーションをとるんだい?」実体のない姿ならば、他の生命体のような声を出す器官も存在しないだろう。どうやって話し合ったりするのかが気になったのだ。この先、運良く知り合いと出会えたとしても、相手に実態がなかった場合の対応方が解らなかったからである。
「地球の言葉を借りればテレパシーとでも言えるかな」と九条は答えた。
「おー、すごいな。僕らは超能力者じゃないか」と、小林は喜んでいた。
「至って普通のことなのに、まだ人間の気質が抜けないのね」
「仕方ないじゃないか。ほかに持ち合わせてないんだから」と小林は反論した。
「いいわ。試してみる」と歩きながら九条は言った。暫くして
「どう?」と聞かれ、僕たちは首を捻った。
「何をしたんだい?」
「話しかけたのだけど、だめそうね」と悔しそうに九条は説明した。元の姿の時に出会って会話を交わしていれば、恐らくは通じたはずだと言った。初めて会う人とは以心伝心が出来ないのと同じ原理だそうだ。とは言え、僕らに記憶がない以上、送受信のやり方さえも忘れている可能性があるとも言っていた。そんな会話をしているうちに、一つの大きな部屋へと招かれた
。
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