第34話 信用
「九条たちだ」と言うと、
「真っ黒だな、任務を続行してたのか?」と、小林はその容姿を口にした。彼らの言う、人類を助ける任務を実行していたのだろうか。
「あの三人はどうするの?信じるの?」康子は鋭い眼で三人を見ていた。僕が言ったせいもあるだろうが、やはり、心から信用するには、まだ無理があった。
「信じていいような気もするが、決めかねている」
「そうだな。迎えに来たことを考えれば、指示を受けているってことだし」最初に出会ったとき、九条が言った『そう言う指示が出てるから』との言葉は事実だろう。所謂、不良品の回収任務だ。
「そうだ。部隊の上司か誰かから指示が出たはずだ」
「でも、自滅させるなら救援部隊を送るかしら」と、康子は眉をひそめた。
「事実を突き付けて、精神的に追い詰める策だったのかも知れないぞ」と小林は、あり得そうな仮定を語った。
「想像すれば、理由はいくらでも出てくるな」
「それだけ、信用しにくいってことね」
「そう言うことだ。まぁ、出方を見るのも手だな」と、僕は目立つように大げさに手を振った。案の定、九条は僕らに気が付き、驚くようなそぶりを見せた。
九条は報告でもしていたのか、話していた相手に軽く会釈をすると、彼女だけが僕らの方へ足早に向かってきた。
「ここで何してるの?」と掛けられた声も、幾分緊張気味に思えた。何かを窺っているようにも感じた。
「検査は終わったが、結果待ちさ」と答えると、
「もしかして、以前のまま?」と、何故だか真剣に驚いているようだった。
「え?どういう意味?」
「その……まだあのままなの?」
「ああ。君らが言う不良品のままさ。それがどうした?」
「いえ。珍しいなと思って」と、九条は考え込むように腕を組むと、小さく首を振った。
「珍しい?」と尋ねると、九条はゆっくりとだが話し始めた。九条が言うには、
不良品である場合は、問答無用で再構築されるか、器も交換されるらしい。そうなれば、今の器は破棄されるということだ。再構築の場合には、すべての記憶も入れ替えるために、任務前の記憶しか残らないらしい。器が変更された場合は、勿論見た目も変わるから、僕らが座っていることに驚いたそうだ。
「上層部の決定次第らしいけど、それって普通じゃないのか?」
「そうね。私が知る限りではね」
「検査で変なものでも出たんだろうか?」
「どうなんだろう。終始、唸ってはいたけどな」と小林がからかうように笑った。検査に携わった技師は、はっきりしたことを何も言わなかったが、確かに、困惑したような顔をして唸っていた。
その表情が何を意味するのかは想像しかできないが、良いことではない事だけはたしかだろう。それよりも、九条と話せたことで僕は大きな収穫を得ることとなった。それは、彼女は信用できる。との気持ち上での判断が下されたことだ。驚いた顔をしながらも、通例の対応状況などを聞かせてくれたからだ、九条には何かを隠そうとする意図が見えなかった。それだけでも、今の僕たちには大きな戦力になる。
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