第31話 選ばれた地球

 精神体だけの種族でも、当然のこと寿命はある。人間のように肉体の衰えがない分、寿命は長い。ただ、時間の尺度が地球とは違うために、簡単に言い表すことは出来ない。しかし、実行部隊でクローンと融合される者は、他の者と違い、寿命は短い。それだけ、本体である精神体に負担が掛かると言うことだ。それを理解した上で、九条はこの任務に志願した。


故郷の星、スワキトナートが襲われた時、九条は単なる防衛部隊の一兵士だった。兵士とは言っても、他の星からの侵略を想定して作られた部隊ではない。あくまでも、王族を守備し威厳を持たせるための存在であり、言うなれば儀仗兵のような役割だった。

ほとんどの同類は器を持たない。寿命が縮まるのがその理由だが、どんな姿形をすれば良いのかさえ、分かっていなかったからだ。何よりの理由として、器がなくともなんの苦労も問題もなかったからだ。そしてそれが普通だと思っていた。

九条たち儀仗兵は、生物ではなく、国旗や権威を表すような飾り物などと融合していた。そして公の場において、王族や民衆の前では踊るのだ。風になびくように踊るのだ、それが任務であった。


ところが、突如として襲ってきた敵に、成す術もなかった。相手の武器を解析し、一時は反撃に成功したものの、圧倒的な数に押され、徐々に居場所を失っていった。

地球に逃げてから分かったことだが、彼らは虫のような存在だった。次から次へと産み出される敵の兵。それに比べて、必要とならない限り、子孫を残すことのなかった同胞。繁殖ということ自体、忘れ去られた文明だった。


結局は、一部の王族などと故郷の星を脱出し、銀河の各方面へと散っていった。その中で、九条たちが向かったのが地球と言う惑星だった。

地球が選ばれた理由。それは太陽の存在だった。故郷の星にも似たような星があり、我々はそのお陰で生存できていた。地球もその太陽と言う惑星を周回し、通年を通し恩恵を授かることが出来る星だった。それが選ばれた一番の理由だが、地球と言う星を見つけるまでには、長い年月を費やした。


虫のような敵と、地球人と言う生命体をその目にし、肉体と言う物を初めて知ったほどだ。そして、その便利さを追求した結果、今のクローン技術が確立された。虫の大群と対峙したとき、成す術もなく吸い込まれて行った同胞を目のあたりにした九条は、肉体があることで反撃できることを知り、すぐに新しい部隊に志願した。


避難してきた同族は、更に地球の各所に散らばった。襲われたときの全滅回避のためでもある。水と空気と太陽の恩恵を受ける地球は、はるかに劣った文明しかなかった。けれども、人類も虫のように多い。そこで人知れずに地下へと潜ったのだ。その中心となるのが、この日本と呼ばれる国の地下。


マグマも多く温かい。肉体がなくとも熱は必要だからだ。熱はエネルギーにもなる。重要な王族もこの日本の地に居る。だからこそ、志願したと言っても過言ではない。王族が生き残ることが、種族存続に繋がるからだ。それは近藤も秋葉も同じ考えのようだ。王族だけは何としても守らなくてはならない、三人はそう心に決めていた。


「ほとんど助けられる者はいないようですね」

「かなり時間が経ってしまったし、下手に人間の救助隊と出会うのも避けたい。

一旦戻りましょう」

「わかりました」

九条たちは遅れた任務を取り戻すかのように必死に行動したが、思ったような成果は上げられなかった。


『人間を救う』確かにその任務は重要だ。けれども、不良品の三人には明かさなかった理由が大きい。それは『人間を盾として使うため』であった。弱くとも数の多い人間が地上に溢れていれば、敵も我々に攻撃しにくい。そびえたつ建物もかっこうのカムフラージュになる。だからこそ、一人でも多く助けろ、と言うのが王族が中心となった議会での決定事項である。人間に執着するつもりはないが、彼らの考え方などは嫌いではなかった。人間の言葉を借りれば『ポジティブ』と言うことが出来るだろう。それは、九条にも植え込まれた記憶の中に、鮮明に残されていた。

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