第23話 不良品の責任は?

 僕たちは、スタスタと歩く九条達の後を追った。真っ暗な地下道でも、はっきりと見えているような足取りだ。暗闇とは言え、慣れれば少しは見えるようにはなる。けれども、ここまでの闇だとそうもいかない。


「あの。ちゃんと見えているんですか?」

「ええ、見えてるわ。あっ、見えてなかった?」と聞き返され、

「はい。ほとんどカンです」と言うのも、僕が洋品店で手に入れた懐中電灯は、すでに電池が切れていた。


「歩きやすいところを選んではいるけど、それもミスなのね」

「ミス?ひょっとして、不良品のことですか?」

「言い方が悪かったけど、緊急時に起動されるプログラムが欠如しているようね。本本来はバックアップが起動し、記憶も全て戻るはずなの。こんな闇も問題にはならないんだけど」と、残念そうに答えた。彼女にしてみれば、情けない同僚とでも思ったのだろう。一緒に働く仲間としては心もとないと思うのも当然かも知れない。


「それって、これからでも取り戻せるミスですか?」

「どうかな?基本的な部分だから、組みなおすとなれば、すべてを一からやり直しになると思う」

「それじゃ、今までに記憶もなくなると?」と黙って聞いていた康子が口を開いた。家族の記憶が真実だと知らされ、喜んだ矢先のことだ。康子にしてみればそれが無くなることへの抵抗があるのだろう。


「どちらにしろ、任務が終われば全ての記憶は抹消され、その姿もなくなるのよ?執着する意味はないわ」と、九条は答えた。その通りだ。そうしなければ、彼女たちのように何度も任務に就くことなどできない。その時その時の状況に合わせるために、記憶も身体も新しくしなくてはならないはずだ。


「そんな……」と、それでも康子はがっかりした様子を見せた。例え作り込まれた記憶だとしても、忘れたくはないと思えるほど素敵なものなのだろう。

「まぁ、初めてじゃ仕方ないわね」と九条が言うと、近藤が口を挟んだ。

「そのうち、慣れますよ」と。



唯一の電灯の明かりで進む地下街には、たくさんの骸が横たわってる。

「気になったんですけど、彼らには目立った外傷もないですけど」

「あー。そうね」と、九条は言葉を濁した。

「通気口は塞がれているし、階段も大変だったでしょ?だから窒息とかじゃないですか?」と、九条の言葉を補足するように秋葉が答えた。


「被爆したとか?」と小林が言うと、

「そもそも、核兵器かどうかもわからない」と康子が答えた。

「あー、それね。核兵器ではないわ」と九条が答えた。

「じゃあ、なんですか。すごい光と爆風に遭いましたけど」

「言っても理解できないでしょう」と、そっけなく言われた。


「それじゃ、今回の任務にはほかにも来ているのですか?」

「ええ。六チームほど派遣されてるはず」

「三人で一チーム?」

「そうね。十八人名は来てると思うわ」

「これだけの被害に十八名って少ないと思うけど」


「優秀な部隊なら問題ないわ。優秀ならね」と、僕たちを振り返った。何が言いたいのかはわかっている。でも、僕たちのせいだろうか。僕たちを作った者のミスだろうに。それでも、彼女の言うことが事実ならば、今の僕が知らない凄い能力を持っている可能性もあると言うことか。

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