12



「こちら、今日俺に声をかけてくれた渚くんです」




はぁ、と大きく息を吐いて呼吸を整えた渚くんは、緑に声をかけようと顔を向ける……と、数秒立ちつくしてしまう。


どうしたのだろうか。


緑をじっと見つめたその瞳は微かに開いたように見え、それからすぐにスッと視線が地面に落とされる。


すると、何事も無かったようにまた緑に目を向けていた。




「はじめまして、渚です」




彼は微かに目を細めてそう挨拶する。


先程の何とも言えない『間』なんてなかったかのように。




「緑です。私と一緒に来た子は鞠よ。よろしく」




さっきの間は何だったんだろう……?


緑も気付いているはずなのに、そこには触れないまま。




「なぎなぎ?なーぎん?」


「え?」


「……あぁ、マリリンの恒例のやつがはじまったねぇ」




顎に手を当てて悩む様な仕草に、私たちはもう慣れてしまっていた。


あだ名付けに悩んでいることなのだろう。


男の子相手でもそれをやるのか、鞠。




「シンプルになぎくんも捨てがたい……むむ」


「あの……?」


「マリモは放っておいてお昼いきましょ」


「そうだね」


「え」


「そのうち決まるでしょ。行こ行こー!」




珍しく悩んでいる鞠の手を引いて、私たちは揃ってお昼ご飯を食べに行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る