5
「ひょう」
「……急に、呼ぶじゃん」
手を大きく広げて、ぎゅっと佐藤氷を包み込む。
彼の体は少し震えていて、熱くなっていた。
ここにいるのは、ギャルの佐藤じゃなくて、私にありのままぶつかって来てくれる、私の彼氏の佐藤氷。
私が愛しく想う、私だけの知っている佐藤氷だ。
「もう、ここには私しかいないよ」
「……うん」
「強がんなくていい」
「………………っ」
胸元が、氷の涙で濡れていく。
これくらい後で着替えればいい。
今はこの、ぐちゃぐちゃな感情に支配された、強がりな佐藤氷を受け止めることが、私の役目。
「涙はいいけど、鼻水はこのティッシュに出してよね」
ティッシュボックスとゴミ箱を氷の隣まで引きずって置くと、すぐにその箱に手が伸びて、私の胸元でじゅるると音を出した。
……ちーんなんてかわいい音なんかじゃなかった。
鼻ん中にめっちゃ溜めてたんじゃない。
「おばか」
頭をぽんぽん、優しく叩く。
私の元に来るまでにもそんなに溜め込んでいただろう氷が、崩れるように私に縋りついて泣く姿に、なんだかくすぐられる。
母性本能のようなものだろうか……怠惰な私にもそんなものが備わっていたのか。
そんな氷を優しく撫でていると、そのうち落ち着いてきたのか、すぅすぅと深い呼吸が聴こえてくる。
深い呼吸が……??
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