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鞠が両手で口を塞いでプルプルと肩を震わせる。


笑いそうなところを必死に我慢しているらしい。


『なんでここで化粧品なんかさとちんに渡すのみどりん!?』なんてきっと思っていることだろう。




「どうせ顔ぐちゃぐちゃなんでしょうから」


「ぶふ」


「鞠、頑張って」




確かにそうだ、あの佐藤が泣いた所も……いや、私は理事長室で一瞬だけその場面には居合わせたけれど、ここは佐藤が泣いててもおかしくない場面ではある。


その場合、フルメイクの佐藤はボロボロに……文字通りボロボロで黒いマスカラの涙を流して拭ってパンダ目になっていてもおかしくない。


佐藤のことだから化粧落としは持ってるとは信じたいけれど……なかった場合の被害がきっと尋常じゃない。




「責任を持って渡しておこう。ありがとう」


「お願いします」




未だ両手で顔面を隠している鞠に「行くよ」と言ってその腕を引く緑は、理事長に一礼してから自動ドアを出て行く。


私も彼に一礼して「佐藤のこと、よろしくお願いします」と一言添えて、緑たちについて行った。






その夜、まさか佐藤がまた私の部屋まで来るなんて思っておらず。


玄関先に男の姿で突っ立っていた佐藤に「よっ」と軽い挨拶をされて、私は目を据わらせたものだ。




今日はあれで終わりだと思っていたのに、なぜいる。

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