after story 2

1



その体は、とても震えていた。




いつも堂々と人を振り回してきて、笑顔で人を引っ張っていくような、妹の為に女装でギャルをやっちゃうような、そんな私の彼氏が。


涙をこらえ、口に手を当てて、呼吸を乱して私の膝の上でうずくまっている。






────彼の中で、一体何が起きているのか。






事情はわかっている、つもりだった。


妹の話は、理事長からも、佐藤自身からも聞いていた。




それなのに、私の想定を超えた反応を示す佐藤に、私は未だ、現実を受け止められていなかった。




「和香」


「…………え、あ……」




そんな私の意識を確認するようにじっと見て、緑は口を開く。




「とりあえず、佐藤のことさすってあげてて、話が聴けそうなら聴いて。必要なものがあるなら私と鞠で揃える」


「……うん」


「佐藤……とりあえず話は落ち着いてから聞くから。一旦そっちのソファーまで動ける?」




こくり、頷く佐藤。


緑の言葉に対して反応を示した佐藤に、私は酷く安心したようだった。


無意識のうちに凄く力んでいて、手に汗が滲んで、爪の先が肌に跡を残していた。




──怖い。


初めて見る佐藤の状態に、肝が冷えていた。




この場に緑と鞠がいてくれてよかったと思う。


これが、佐藤一人の時だったら……?


親はいない、唯一の家族である妹は病院で、理事長も家にいるかもわからない。




そもそも佐藤が誰かと暮らしているのかすら、わからない。

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