第2話
プロローグ
俺には亡き母と親父と妹がいてるけど
妹はともかく親父は米国で滞在しメールで一言で充分である。
あんな無機質な父親に顔合わせる事もないだろ。
そんな彼女との普通の人間に「こんな出会いがあった」と話しても「はぁ?何だそれ」と返ってくる様な奇妙な出会いから数週間
自分の胸の中に彼女の名前と優しい顔が刻み込まれたまま日々悶々としていた。
しかし再会は意外と早く意外な場所で彼女と出会った。
「本日から臨時講師として常勤する紫瑠子です。」
けだるい空気の漂う朝のHRに担任につれられて以前の優しい顔とは正反対の少し厳しめな顔をして彼女は現れた。
(臨時って・・・先生のタマゴだったのかよ・・・)
確かに年上には見えたけど黒板に書かれた彼女の年齢は19歳と書かれていた
わずか19で講師ってどういう事?やはり周囲も俺も同じ感想だったらしい。
変に周りがざわめいている。
彼女は周囲の反応に押されたのか目をウロウロさせてたけどすぐにその後何かを決意したかの様にキュッと唇を結んだ。
「臨時講師と言っても皆さんに授業を教えるわけじゃございません」
顔を厳しくしたまま彼女はこう続けた。
「まだ世間では発表されてませんが私はある調査の為この学び舎訪問させて頂きました。」
「いつも緊急にお借りした実習室に滞在していますので何かございましたら訪問してください。」
それだけ言い残して彼女は深々と頭を下げ教室を後にした。
・・・えらいそっけない挨拶で終わった。
しかも結局何が言いたいのか伝わらないままとりあえず訪問して下さい、って一体・・・。
「~ある調査の為訪問しました~」
彼女のこの一節から数週間前に俺の身に起きた出来事を頭の中でループさせていた。
紫瑠子はどうやらすべてのクラスに挨拶に行ったらしく滞在してるという実習室には毎日昼休み放課後問わず生徒達の出入りが激しかった。
俺ももう一度話でも出来るかな?ととある昼休みに廊下から例の実習室を覗いてみた
実習室のドアを覗くと紫瑠子と一人の男子生徒が向かい合って対談していた。
俺は生徒が中から出てくるのを廊下で待って、出てきた生徒に尋ねてみた。
「なぁ、あの臨時講師どうだった?」
「あぁーあんたは・・・噂の編入性かぁ」
生徒は俺の金髪の頭見てすぐに誰かわかったらしい。
「いや全然大した事ないよ、あっちが質問投げかけてきたからそれに答えただけ」
HRで見た彼女の印象と同じくらいそっけない話だった。
俺はその生徒と入替りに実習室に入る。
「ども、お久しぶりっす。」
なるべく親しくなりたいのでフレンドリーに挨拶してみた。
少しくらい再び会うのだから
「あっ…君は…この前の…」と彼女は思わず口にしたがすぐに真剣な顔つきに変わった。彼女が再開出来て無事でよかったとらと淡い期待をしていたのだが…
「入る時はノックしてね。」
あれ?一言で期待は終わった。
それでも負けじと会話を続けてみる
「いやーこの前は助けてくれてありがとうございます。」
うん助かる様にしたからそれだけ」
また一言で会話は終わった。
彼女はこちらに目もくれず黙々と机に向かって何かを紙に書いていた。
意気消沈した俺は空いてる席に少ししょげながら座った。
「でもこの前は死ぬかと思いましたよ、日本じゃこんな病気でも流行ってんすか?」
「そんな事ないわ。あなたの場合は非常にまれなの」
書き終えた紙をきれいに整えて彼女は初めて俺の顔を見てくれた。
人間はほんのちょっとだけ見せたゆるみ顔から、こう素早く真面目に切り替われるのか…しかし
(うーん美人さんだな)
無意識に見とれてしまったのか彼女の方から顔を赤らめて視線をそらした。
(?あ、またゆるんだ)
あんまり異性に免疫でもないのか?ちょっとだけ無愛想な彼女のスキが見えた。
「そうだね、あなたには説明しておいた方がいいかもね。」
再び真面目な顔に戻った彼女は私物入れらしい鞄から何かを取り出した。それは小さいポッケトミラーに見えた。
「ここから周りを見てみて。」
ミラーに見えたそれは彼女が指先でパカッと開くと中身は透明なガラスが嵌め込まれていた。見たこともない物不思議さを覚えて素直にのぞいてみた。
透明なガラスから見る景色は全く色味のない白黒の世界だった。
「・・・何だこれ」
さっきまで教室を赤々と照らしていた夕日も黒く染まり陽に溶けてほのかなオレンジ色の雲もよどんだ雨雲のように灰色に染まっていた。
「すごい道具だな。最近流行ってんの?それ」
「そっか、君には見えたんだね。」
軽いジョークにも付き合ってくれず彼女はアイテムをスカートのポケットにしまいこう続けた。
「私たちが普段暮らしてる世界は彩りにあふれている…それらは物質自体が色づいてる訳じゃないの。」
「はぁ…、でもこんなのやあんなのもペンキで塗ってたり、元々色ついてたりするじゃないですか。」
と俺は教室の壁やら机と椅子、夕日まで色んな部分を指した。
「でも違うの。私達の眼が壁の色が白いと感じたり木の色がこうだと眼を通して見て、感じてるだけ」
彼女の話には理科の授業で心当たりがあった。
「で、このアイテムは見えた人にだけ特別な症状がある可能性がある。それは色味を感じてないという事。」
さっき体験してしまった事だから彼女の話には不思議と違和感を感じなかった。
「ねぇ、一つ聞いていいかな?」
椅子になにげなく腰をかけながら上目遣いで彼女は俺を見てきた
一番聞かれたく無いことだった。
「親御さんと仲が悪いとかある?」
さっきまで綺麗だな、美人だな、と彼女に見とれていたのに急に俺は目をそむけてしまった。
ほんの数秒だけ沈黙が続いたのにそれが長く感じる。
「いや何言ってんすか、びっくりするなぁ」
沈黙に飲み込まれないようにあえておどけた振りをした。
「そう、でも私しばらく学校に残るから何かあったら話してきてね。」
初めて会話したのに後味の悪い放課後だった、まるで親御さんとは最近いかがですか?といきなり訪問してきた家庭訪問の先生のようだった。
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