第16話・舞踏会という名の御狩り場


 それから十年が過ぎ、優しい養父と愛らしい弟に囲まれてわたしの世界は輝いていたというのに五年前に隣国の先代パルシュ国王が崩御し、あのいけすかない王子ヘリオスが国王に就任してからまさか再び係わって来ることになろうとは思ってもみなかった。


 ヘリオスは国王就任の折に遠方の大国ココトールから王女を正妃に迎えたが彼曰くごく普通の容姿の王妃とは仲が芳しくなく、ココトール国の機嫌を損ねない為に表だって妾妃を持つのは避けているものの、愛人の数には事欠かないと評判だった。

 城下にお忍びで繰り出ては片っぱしから女性を口説いてるとか、今度は男色に走っているとか、とにかく下半身がだらしないことで有名でその噂はブラバルト大公国にまで届いていた。


 王子の頃から美しい貴族の令嬢に片っぱしから手を出して、一度貞操を奪うと興味が無くなるらしく「処女食い王子」と、有り難くない異名を持っていた王子は、貴族の子女にはほとんど手を出してしまっていたらしい。

 その頃ちょうど運悪くわたしが十六歳となり、社交界デビューの時を迎えてしまったのだ。その時にはすでに隣国のヘリオス国王の悪評を聞いていたので、わたしは彼が出席する社交界ではダンスなど披露して皆の関心を惹かないように、なるべく給仕の者たちにまぎれ壁際や窓際にいるように心がけた。


 この世界では金髪や銀の髪や赤毛などが当たり前で、わたしのような黒髪の者はめったにいない。その場にいるだけで黒髪のわたしは目立つのでベールをかぶって顔を隠して大人しくしていたというのに、逆にそれが若い男性貴族たちの関心を惹いてしまう事になろうとは思ってもみなかった。


 そこには思いがけない貴族社会の背景があった。庶民達からみれば雲の上のような存在の貴族の姫たちは綺麗に着飾ってお淑やかで男性をたてて…と、思われがちだが、彼女たちはその幻想をあっさり打ち破るほど逞しかった。少しでも有能な男性の元へ嫁ごうと舞踏会が彼女達にとってはいい男探しの狩猟の場と化し、ハンターのように目を光らせて獲物を待ち構えていた。


 男性貴族たちがちょっとでも声をかけようなら『爵位、年齢、年収、家族構成、お家事情』と、ギラギラした目で聞きだし、しまいには女性経験のありなしまで触れて来るので閨事は秘め事と思っている男性の柔な精神をへし折ってしまい、真のお育ちの良い貴族の子息たちは辟易して逃げ回ってるのが現状だった。

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