第4話・気になる噂


「ヒメ。おいで」


 楡の木の下から、空を見上げてハインツが手招く。楡の木の下には柔らかな芝が広がり、生い茂る楡の木の葉の影が緑の地に伸びていて、木陰になっている。確かにここで昼寝するのは気持ちよさそうだ。青々とした葉の香りに誘われて、わたしはハインツの脇に寄った。すると塀の外から、気になる会話が聞こえて来た。


「そんなの嘘だろう? あの公子さまが?」

「ああ。オレも信じられないよ。アイギスさまが姉ぎみのマリカさまを殺しただなんて」


 どうやら宿屋の裏通りで、商売返りの行商人らしき中年の男性が、話してるようだ。


「どうせあの色ぼけ国王のでっち上げだろう? 公子の姉ぎみさまにお熱を上げていて、袖にされたって噂も流れていたし……」

「振られた腹いせに、弟ぎみを訴えたってか? そりゃあ、あまりにも短絡すぎないか?」

「あの国王さまならやりかねないだろう? 言い寄って逃げられたのを、失踪しただなんて騒いでさ。公女さまもお可哀相に。変な男に付きまとわれて」


 わたしはにゃあ、にゃあ、と、鳴いて、横になっていたハインツを、起こそうとした。


『大変。大変。起きて。起きてよ。ハインツ』

「なんだヒメ。おなかでも空いたのか?」

『そんなはずないでしょ。あの人達アイギスの話してる』

「分かった。分かったって。引っかくなよ」


  ハインツに、知らせようとしたら熱が入ってしまっていたらしい。手から爪が出て、ハインツの鼻先をかいてしまった。


「なんだって? 一週間後に決闘裁判? 公子さまの聖騎士を募集するって? また大がかりなことを始めたな。国王さまは」

「噂では公女さまはしつこいパルシュ国王の求婚から逃れて、どこぞの国に駆け落ちしたんじゃないかって都では騒ぎになってたよ。その手引きをしたのが公子さまで、それを国王は良く思ってなくてこのような暴挙にでたんだろうってさ」

「アイギスさまがお可哀相だな」

「ああ」

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