第3話・わたしはヒメ


 わたしの素性を知るハインツは、わたしを『ヒメ』と呼んでいたが、おかみさんはわたしの外見が黒い毛で覆われているので単純に『黒ちゃん』と、呼んでるらしかった。


 今のわたしは黒猫の姿をしているがそれは昼間だけのこと。夜には本来の姿に戻るのだ。わたしにはある魔法がかけられていた。

 それは自分の身を守る為のものだったけど厄介なことに、一日の半分を猫の姿になってやり過ごすことになってしまっていた。そのことを知っているのは同居人のハインツとハンスのみ。


 宿屋のおかみさんは、わたしのことをよく躾されたハインツのペットだと思っている様だった。宿屋にペットを連れて宿泊を断る宿屋もあるなかこの金満亭では主人たちが気のいい人達で動物好きということもあってか、小動物ぐらいまでなら檻に入れて連れ歩くかリードをつけて他の宿泊客に迷惑をかけないなら、一緒に宿泊も許されていた。

 ハインツはその場にごろりと横になった。


『ハインツ。行儀が悪いわよ』


 わたしの言葉はハインツには猫の鳴き声にしか聞こえないだろうけど、わたしはつい、言わずにはいられない。

 ハインツという男はどうも自分の身だしなみには気を使わない。ハンスにどやされなかったら宿屋のお風呂にも自分からは入ろうとしない男だ。それが見目が良いだけに実に勿体なく思われた。


「気持ちいいよ。ヒメ。ここが一番お昼寝には最適なんだ。きみも寝転んでご覧」


 わたしの声は猫の鳴き声に変換されて彼の耳に届いてるはずなので、わたしの言葉は正確には伝わっていない。ハインツはどうやら適当に話を合わせてるようだった。

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