第8話 昼下がりの海辺で
チャオ! ボクはハッピー君。世の中ではボクのこと犬って呼んでる。
犬種はシーズーっていうらしい。
みんな元気してる?
ボクは暑さとかまったく関係なしにすっごい元気さ。だってボクは3年前に死んじゃって今はからだが無いから魂になって美音ママの中に溶け込んじゃってるから。
ママが元気がない時もボクは元気なんだ。それでね、いつもママを励ましてる。
「ママ、大丈夫だよ。ボクがついている。」ってね。すると不思議なことにママはホントに元気を取り戻すんだ。
これってボクの思い込みではなく、ママの思い込みでもない。すごいでしょ。てへへ。
あっそうそう、ボクに友だちが出来たんだ。紹介するね。
いきさつはこう。
ある日ママのもとに絵葉書が届いた。ダイレクトメールっていうらしい。
ママはその絵葉書の写真を見てクスッと笑った。
サンドベージュの砂浜の上に、ワンコがとぼけた顔をして寝そべってる。
サングラスをかけて麦わら帽子も被って。お鼻が大きくてまっすぐママのことを見ていた。
そのワンコを見てママは笑った。そして言った。
「ハッピーに友だちが出来たよ。名前はなにがいいかな。うーん。とぼけてひょうきんな顔してるからファニーにしよう。」
「ファニーかあ、いいねぇママ。おーいファニー出ておいでよー。ボクはハッピー君。よろしくねー。」
するとねファニーがなんと絵葉書の中から飛び出して来てボクにこう言ったんだ。
「君がうわさに聞いてたハッピー君かあ。うわさ以上にかわいいなあ。」
と言ってボクのお尻のほうに来てクンクン匂いを嗅いだ。
ボクはくすぐったくなって、「もおーファニーったら。何して遊ぶ?」
「うん、そうだね。砂浜でかけっこしない?」
「かけっこ、いいねっ。よおし競争だあ。行くぞー」
ボクとファニーはサンドベージュの砂浜を夢中になって駆け回った。
おひさまも青い海もサンドベージュの砂浜も笑って見てる。
ママも白いパラソルの下に置いてある藤椅子に座ってシアワセな顔でボクらを見ていた。ママのこんな満ち足りた笑顔、久しぶりに見る。
いつの間にか、テーブルの上にはキンキンに冷えたオレンジアイスティーが置かれていて、ママはゆっくりとそれを飲んでいた。
生成りで丈の長い木綿のワンピースの裾がフワッと風に揺れている。
足には桜色のペディキュア。素足を熱い砂につけて感触を楽しんでいた。とっても気持ちよさそうだ。
時々は海に近づいてそっと足を浸したりもしていた。海辺の足浴。いつのまにかファニーの麦わら帽子を被ってる。ククッ。頭が小さいから入るんだね。
ママも楽しそうでボクも嬉しい。
っと、みんなついてきてる?
死んじゃったボクがなぜ砂浜でかけっこできるの?て思ってるでしょ。
魂には魂の世界があるんだよ。魂の世界ってどんな世界なの?って知りたい?
知りたい人にだけ教えてあげるね。
あのね、魂の世界を想像する時にいちばん分かりやすいのが、眠っているときに見る夢なんだってさ。夢の中の姿が魂だと思えばいいらしいよ。ママの先生が言ってた。
今はボク、美音ママの夢の中でファニーと砂浜でかけっこしているというわけ。
これで納得がいったでしょ。
夏休みに新しくできたボクの友だちファニー。絵葉書の中から飛び出してきて一緒に遊んでる。
ママがボクとファニーにおやつをくれた。
レバーのお肉を茹でて凍らせたやつ。ボクはこのおやつが大好き。
ボクとファニーに一粒ずつ食べさせてくれる。ファニーも嬉しそうにモグモグしてる。よおし、おやつを食べたらまた、かけっこの続きをするぞ。
あっ、カニさんだ!
「おーいファニー、カニさんがいたよー。一緒に遊ぼう。」
「えっ、カニさん?あっホントだあ。カニさん、こんにちは。」
するとカニさんは言った。
「こんにちは。はじめまして。じゃんけんをして遊びましょう。」
ボクはニヤニヤして言った。
「いいよー、せーのージャンケンポンっ。」
カニさんはチョキ、ボクらはグーしか出せない。
当然ボクとファニーの勝ち。
「ハハハ。カニさんの負けー」
カニさんは真っ赤になって悔しがった。
そんな僕たちを見ながらママは声を出して笑った。
おひさまも海もサンドベージュの砂たちも笑った。
楽しい夏休みになりそうだ。
遊ぶのにいそがしいから今日はここまで。また会おうねー。
あんにょん。バイバーイ。
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