10-9. 水の底のエリー
蒸発させた敵の拠点は海上にある水の建造物。
その周辺の陸地も岩場が広がり、可燃物はほとんどない。
普段は強力な【火魔法】を使っても、延焼した炎から魔力を回収できるのだが、今回使った魔法は、完全に自前の魔力の持ち出しだ。
魔力量が多いエルフが、レベル999の技術で最大限魔力消費効率を高めた魔法は、十分な威力を発揮した。
とはいえ、今の状態で同じ規模の物を連発するのは難しい。
「とりあえずここで待機するわよ」
「はーい」
しばらく沸騰した海や日光の熱を変換して地道に回復しつつ、5分と少々。
エリーとローズマリーが海辺で待っていると。
ざぷん、と水を掻き分け。
海の中、敵拠点のあった辺りから、1人の猫系獣人が現れた。
「……ふぅ……」
海面に手をかけ、穴から這い出るように立ち上がる。
ぶるぶると顔を振って水を切るような
海中から出て来たにも関わらず、髪も服も濡れた様子はない。
そもそも、海中から猫系獣人が出てくること自体に違和感があるのだが。
「……あれぇ。まだ残ってる人がいるぅ……」
その小さな呟きを、エルフの鋭敏な聴覚が拾い上げる。
エリーとローズマリー、それに相対する猫系獣人は、しばし無言で見つめ合っていたが。
「……あー……あ?」
猫系獣人は首を傾げて。
ぴちゃり、ぴちゃりと小さな水音を立てながら海面を歩き。
段差を乗り越える程度の気軽さで上陸して。
「もしかして、さっきの。貴女がやったんですかぁ?」
猫系獣人はエリーだけをじっと見つめて、そう尋ねた。
「はい、まぁ」
エリーは素直にそう答えた。
「……たぶん、火属性のスキルですよねぇ……熱かったですし」
「そうです」
エリーは少しだけ、胸の内がわくわくと沸き立つのを感じた。
「ひょっとして、前に火山で会ったエルフじゃないですかぁ?」
「えっと? 火山?」
急に話が飛んで、少し水を差されたような気分になる。
火山を訪れたのは、確か、一度死んでレベルがリセットされた後に、効率良く(なおかつ森を焼かずに)レベル上げを行うために行ったきりだ。
言われてみれば、あの時に猫系獣人に会ったような記憶がある。
異種族なので個々の顔の区別はつかないが、その時の相手だろうか。
「まぁ、どうでもいいけどぉ……」
エリーがようやくその時の記憶に辿りついた所で、相手はあっさりと話を打ち切って。
「……とりあえず、部下達の仇討ちですぅ。死んでください……」
急速に周囲の海水が消滅し、魔力に変換されてゆく。
そして唱えた。
「≪メイルストロム≫ぅ」
幅広の大瀑布を横倒しにしたような猛烈な水流が、海から陸へ向けて噴き出した。
***
相手は海辺の【水魔法】使いだ、強いだろうとはエリーも思っていた。
思っていたけれど、これだけの勢いの水が、数十秒も続けて叩き込まれる状況は想像していなかった。
現在、エリー達は氷の壁の裏で、左右の激しい水流を眺めている。
エリーが咄嗟に熱を魔力変換して凍らせた海水から、ローズマリーが時間を魔力変換して停止させた氷壁は完全な不動を保っている。
壁と言っても上や左右は開いているので、そこから水が流れ込んで来そうなものだが、あまりにも水流の威力が強すぎて、壁で遮られなかった分は陸地の奥深くまで直進しているらしい。山やら森やらが削れていた。
ローズマリーはどうだか知らないが、エリーはそれほど魔力に余裕があるわけでもない。
長期戦になれば不利だし、もっと言えば、絶対に「長期戦になれば不利」だということを、相手に悟られてはならない。
自然物をそのまま魔力に変換できる【水魔法】や【風魔法】、【地魔法】と違って、【火魔法】には明確な弱点となる環境、使い難い環境があるのだ。
やはり、何だかんだといって【火魔法】は外れスキルなのだな、と、エリーは心中で溜息を吐いた。
さて、しかし、そんな内心を相手に知られてはいけないのだ。
ひとまずは、余裕ぶった態度で相手を挑発すれば良いのだろうか。
「ロゼちー、これ勝てるんだよね?」
取り返しのつかない状況になれば、ローズマリーは【時魔法】で時間を遡行して無かったことにするので、ローズマリーが隣にいるということは、最終的には勝てるのだろう。
そう思ってエリーは尋ねたのだが。
「知らないわ。今の私の主観だと、これが初戦闘だもの。
負けたら過去に戻るけど、今回のエリちーが勝てるかどうかは判らないわよ」
少なくとも、私達のどっちかが死んだらやり直すわ、とローズマリーは肩を
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