燎原の森エルフ ~外れスキルをレベル999に育てて調子に乗ってるやつらがむかつくので、当たりスキル【火魔法】をレベル999に育てて焼き尽くす~
7-12. 手ぶらで帰るリーン‐ジャクリーン(第七章完)
7-12. 手ぶらで帰るリーン‐ジャクリーン(第七章完)
「陛下ぁ。ただいま戻りましたぁ」
カランコロン、とドアベルが鳴り、薄暗い部屋に明かりが差し込む。
出張先から戻った猫獣人の女性が屋内を見渡せば、カウンター席にもテーブル席にも、探した相手の姿は見当たらない。
「あれぇ、いない……また玉座の間かなぁ……」
潰れた喫茶店の跡地を買い取ったアジトは居心地も良く、以前は陛下や四天王らと此処でのんびり過ごすことも多かった。しかし最近は城の方に集まることが多く、カウンターテーブルにも
猫獣人は戸締りを確認した後、ひょいひょいとカウンター奥の調理場に向かい、最奥に設置された転移門を
脳をぎゅっと握られたような不快感。すぐにそれも抜け、門の先の空間に降り立つ。
瞬間移動は魔王の
石造りの部屋を出て、石造りの廊下へ。
ここは以前は何とかいうヒュームの大貴族の居城だったが、陛下とその軍勢がちょちょいと占拠して、今は仮設の魔王城となっている。
廊下の所々に血の染みが残っているが、これはまあ、近日中に掃除する。最近『水の四天王』から降格された彼女には、時間が有り余っているのだ。
「……はぁぁ……気が重いよぉ……」
出張の目的は果たせず、手ぶらで上司への報告に戻る。
報告先の相手こと【魔王】陛下は、彼女の気分的に上司というより恩人とでもいう方がしっくりくるが、どちらにせよ気は重い。
玉座の間――ヒュームの貴族が主だった頃に何と呼ばれていたか知らないが、立派な椅子のある部屋だったので、魔王軍でそう呼ばれている部屋――の重い扉を全身で苦労して押し開けば。
奥行きの広い大きな部屋の最奥、立派な椅子に【魔王】陛下が威風堂々と
「陛下ぁ。ただいま戻りましたぁ」
「ククク……うむ。
よくぞ戻ったな、リーン‐ジャクリーンよ」
「ははぁー」
リーンは長年の癖でつい平伏してしまう。
元は【魔王】のスキルレベル上げのために配下を集めていた彼の希望で、レベル上げのための「魔王らしき振舞い」とは何かを2人で相談して、リーンが日常的な平伏を心掛けるようにしていた。
今はもうレベル上げなんて必要ないのだから、この行為にも実利的な意味はない。
それでも、【魔王】の最初の配下としての絆のような物を、リーンはこの平伏に感じていた。
「ククク……して。火山にて、『火の四天王』候補は見つかったか?」
リーンの出張の目的がそれだった。
他の四天王やその予備人員と違い、『火の四天王』はいつでも人手不足だ。
現在の魔王軍の幹部、『四天王』は全員がレベル999。
全員が“先生”の所でスキルレベルを上げた外れスキルだ。
火系統のスキルには明確なハズレが少ないため、人を集めるのも難しい。
別に外れスキルに
何せ、“先生”は、外れスキル以外を育成しようとしないので。
今回の出張、ただでさえ
【毒耐性】のハンナと、【火魔法】のエルフだ。
「うぅ……すいませぇん、陛下ぁ……」
謝罪しながら、2人のことを思い返す。
ハンナは陛下の後輩だ。
陛下が月に1度ほど、“先生”の所に通って指導を受けていた頃に、リーンも陛下のお供で近隣までは来たことがある。
その際に、遠目に見た。向こうは「革命」、陛下は「征服」と、多少なりと趣味が重なっていたので、楽しそうに盛り上がっていた。
ただ、“先生”の下を卒業した陛下は全てを忘れ、彼女のことも覚えていないのだろう。
リーンは、外れスキルではないと言われて、“先生”の指導を受けることができなかった。だから全て覚えている。
リーンとハンナに直接の接点はないし、また残念ながら【毒耐性】のハンナは『火の四天王』にはなれないので、スカウトもしなかったが。
もう1人、【火魔法】のエルフは、大当たりの四属性魔法スキル。
一片の外れ要素もない、当たり中の当たりスキル。“先生”が指導してくれるはずもないので、自力で地道にレベルを上げる必要がある。強いスキルではあるのだろうが、魔王軍の即戦力としては期待できない。
また、個人的にも四属性魔法スキルは、あまり好きではない。
「ククク……良い良い。簡単に見つかるようなら苦労はせぬわ」
陛下は鷹揚に答えた。
ミスを厳しく糾弾し、一度の失敗で配下を殺すタイプの魔王にはならない、と陛下は言っていた。その初心が今でも陛下の根底を形作っている。
「ククク……フフフフ……今は旅の疲れを癒し、存分に休むが良い。夕刻より幹部会議を行うのでな」
「ははぁー、ありがとうございますぅ」
深々と平伏した後、身を起こして退席する。
自室として与えられた立派な部屋に向かう中、リーンは取り止めもなく考えていた。
魔王軍幹部――つまり【魔王】陛下、四天王、そして畏れ多くも一の配下にして側近の自分。
その中で、レベル999でないのは自分だけだ。
正直な所、リーンには若干の寂しさというか、疎外感がある。
「陛下はぁ……弱者でも、ハズレでも、自分の配下は見捨てない大器だからなぁ」
最近は時々怖い雰囲気を出すこともあるけれど。
いつからだろうか。レベル800を超えた頃?
もっと前からだったかもしれない。
敵に対する時は特に顕著だ。リーンは後ろで見ているだけでも震えてしまい、最近は前線ではなく、人材スカウトや後方支援を担当することが増えた。
とはいえ。
「陛下について来て良かったなぁ」
それもまた【魔王】らしくて格好良い、とリーンは思っていた。
―――――――――――
以上で第七章完結です。
いつもお読みいただきありがとうございます。
何か今回書くのに時間がかかるなと思ってたら
七章は他の章の3割増しくらいの文字数がありました。
おかしいと思ったんですよね。
また章末まで書けた時点から毎日投稿になりますので、
引き続き、第八章で宜しくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます