第八章:【魔王】のドルガンドス

8-1. 王宮を落とすドルガンドス

先ほど八章まで書けたので、本日より更新再開です。

章末話までは毎日更新の予定です。


■■忘れてしまった人のための簡単登場人物紹介■■

・エリー…主人公の森エルフ。【火魔法】レベル999。大抵の問題は焼けば済むと思っている。今回は出てこない。

・ジロー…ヒュームの少年。スキルはないが、賃貸住宅の保証人になれる程度の定収入がある。今回は出てこない。

・ヒタチマル…ドワーフの中年男性。【豪腕】レベル15と少し。催眠術により自分がハクビシンだと思い込んでいる。今回は出てこない。

・ローズマリー…子爵の妹のヒューム。【時魔法】レベル999。数日程度の時間遡行は気軽に行う。今回は出てこない。

・ドルガンドス…ヒュームのアラサー。【魔王】レベル999。顔色が悪く、角が生えている。今章のメイン。

・リーン…魔王の配下の猫獣人。前章では【魔王】の指示により、火山地帯でフラフラしていた。今回は出てこない。

・王太子…フルリニーア王国の王太子。2章1話でフレーバーとして出て来た。

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 フリルニーア王国の王都フルリニーア市は瓦礫と黒煙に埋もれ、市民の代わりに大小雑多な魔物が我が物顔で闊歩かっぽしていた。

 その光景が王宮の玉座の間から見渡せるのは、何のことはない。壁に大穴が開いているからだ。

 壁に大穴が開くことなど、今時珍しくもない。【魔王】が攻めて来れば大抵はそうなる。


「ククク……愚かなヒューム共よ。そろそろ力の差を理解したか?」


 むしろ逆に、何故ここに至るまで理解できなかったのか、と【魔王】ドルガンドスは内心で首を傾げていた。


 ドルガンドスは、きちんと順を追ってここまでやってきたのだ。


 第一に、ドルガンドスが攻め込んだヒューム国家は、このフルリニーア王国が初めてではない。

 隣国が2つ、既に滅んでいるのだ。小国とはいえ国である。最低限の力の差は示していたつもりだ。


 この国に来た際も、まずは国内で最大規模の軍隊を持つ大貴族を討って城を奪った。

 その居城を仮設魔王城として、空にも黒雲こくうんを浮かべて雷鳴を轟かせ、創造した魔物を国中に放ち、配下の四天王にも周辺の貴族領を攻め滅ぼさせている。


 今回、王都を攻めた際にも、まずは王都を防衛する軍だか騎士団だかをきっちり殲滅し、街に放った魔物も問題なく破壊と殺戮を極めている。

 外の様子が見えるように王宮に大きな穴を開けた。何なら破砕音や悲鳴も聞こえていたと思う。


 国王の首も貰い受け、最精鋭とかいう近衛兵団も一撃で葬ったのに、どうしてまだ膝を折らないのだろうか。


「邪悪なる魔王め……私は、この国は、貴様等には決して屈しはせん!」


 成人を迎える前後と見える若い男が、剣を構えてドルガンドスに対峙している。

 近衛兵等より派手な色味で質の良い服を着ているから、貴族の子息辺りだろう。ひょっとすると王族かもしれない。


「ククク……面白い。貴様、殺す前に名を聞いてやろう」


 特に面白くもなかったし、それほど興味もなかったが、ドルガンドスは半自動的にそう尋ねた。


「貴様等に名乗る名は無い!」


 ならいいか、と思った。


「殿下、お下がりください!

 私が少しでも時間を稼ぎますので、殿下はその間に!」

「リリアーナ! 馬鹿を言うな、王族が逃げるわけにはいかない。君こそ早く逃げろ!」

「いいえ! 王太子妃は王家を守ることこそ務め、私などより王太子たる殿下の御身の方が大事です!」


 場違いにヒラついたドレスの女が、男を庇うように前に出て、何やら言い争いを始めた。

 これはまとめて殺せば良いのだろうか、とドルガンドスは少々考え込んでしまったが。

 少し気になる言葉があったようにも思う。


「ククク……王太子? ということは、貴様があれか。【掌返し】のシャルロットの、元婚約者とかいう奴か」


 【掌返し】のシャルロット。

 【魔王】レベル999として覚醒するまでの数ヶ月間、ほとんどの記憶が抜けている期間がドルガンドスにはある。

 自分自身には所々の曖昧な記憶しかなく、配下の多くも同様であった。

 が、1人だけその間の記憶を保っている者がいた。


 その者に聞いた話では、【掌返し】のシャルロットはドルガンドス自身が何処ぞで拾ってきて、何やら施しを与えたという話だ。

 魔王軍の配下にはならなかったし、彼自身の記憶には無いが、短期間とはいえ自分が面倒を見たのなら、その後も多少の配慮はしてやらなくもない。

 それが王として、【魔王】としての振舞であると、ドルガンドスは考えている。


「シャルロットだと? 貴様、シャルロットの手の者か?

 あの外れスキルめ、婚約破棄の逆恨みで王国に仇を為すとは……ッ!」

「ククク……いや、どちらかと言えば、シャルロットが余の手の者らしいのだが」


 又聞きの噂によれば、そのシャルロットは生家のある街を半壊させた後、通りすがりの何者かに討伐されたそうだ。

 先日その街に立ち寄った配下の者が残念そうに語っていた。


 一時期とはいえ、己の下にいた者である。

 この王太子は自分で心当たりがある程度に、シャルロットから恨まれていたようだし。

 ついでもあるので、元配下の無念くらいは晴らしてやろう。


「ククク……フフフフ……何にせよ、恨まれている自覚はあるのだろう。

 ならば後悔と共に地獄へ沈むと良い。

 ≪ギガダークネスヘルデスフレア≫」


 何となく強そうな単語を繋げるほど威力が上がる【魔王】の魔法。

 5節からなる漆黒の炎は、剣を構えた両腕を残して王太子の全身を焼き尽くした。


 ぼとり、カラン、と石床に肉と金物かなものの落ちる音が響く。

 王太子妃を名乗った女は、床に転がる両腕を見て、しばし茫然としていた。


「さて……王家はたった今滅んだが。貴様はどうする?」


 ドルガンドスが尋ねてみれば、王太子妃は我に返り、目前の【魔王】を睨み付ける。

 そうして無言で剣を拾い、重そうな手付きでどうにか刃を向けた。

 王太子の死に掌を返す、といったこともなく、最後まで抵抗を試みるつもりらしい。


「ククク……フフフフ……ハーッハッハッハ!

 面白い。その意気に免じて、その男と同じ魔法で殺してやろう!

 ≪ギガダークネスヘルデスフレア≫!!」


 正直に言えば少しも面白いとは思わなかったが、新しく魔法の名前を考えるのが面倒だったのだ。

 どうせ殺す相手に、変に格好をつけても仕方ないのだが……【魔王】とは、そういうものだろう。





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主人公視点の話は次話からです。

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