第二章:【掌返し】のシャルロット

2-1. 婚約破棄されるシャルロット

「シャルロット・カトリーヌ・リエット。

 君との婚約は、無かったことにさせてもらおう」


 高等学園の卒業式典。

 学長や来賓からの祝辞が終わり、記念のダンスパーティが始まる直前。


 侯爵令嬢シャルロット・カトリーヌ・リエットは、婚約者である王太子から、一方的な婚約破棄を叩きつけられた。


 といっても、王太子の隣に浮気相手が縋り付いているわけではないし、軍務・政務の重鎮の息子らが取巻いているわけでもない。


「そんな、どうして突然……!」


 シャルロットは悲痛な声で訴えはしたものの、理由自体には、既に想像がついている。

 ただ、自分の婚約者が、そのようなことで本当に婚約破棄を実行するなど、信じたくなかったのだ。


「言わなければわからないか。せめてもの情けとして、理由は伏せておいてやろうと思ったのだがな」


 シャルロットとて高位貴族の娘で、これまで未来の王妃となるべく、相応の教育を受けて来た。

 言われなくてもわかるし、情けをかけるなら、こんな場所で婚約破棄宣言をして欲しくはなかった。

 ただ信じたくなかっただけ、話を引き延ばす間に、冗談だと撤回してくれたらと思っただけだ。



「それはな、シャルロット。先日の君の誕生日――スキル授与の儀で、君が得た、スキルが理由だよ」



 やはり、とは思う。

 しかし、それだけで、とも思う。


 規定通りの年齢で入学した場合、生徒は学園の最終学年に成人となる。

 平民は月ごとに多人数が纏めて儀式を行う場合もあるが、ほとんどの貴族は成人となる誕生日当日、個別にスキル授与の儀式も実施する。


 シャルロットの誕生日は、卒業式典の数日前だった。

 当日は婚約者も祝いに訪れた。

 儀式の数時間前には、国と2人の将来について笑顔で語っていたはずだ。


 少なくともシャルロットの認識では、自分と婚約者の間には、多少なりと政略以上の関係があったように感じていたのだ。

 万一政治的意図のみの婚約だったとして、それでも自分の家と王家が繋がることは、国家の安定にとって重要な意味を持つとも。


 スキルは重要だ。

 しかし、人はスキルだけで生きるわけではない。

 婚約者は、そうは思わなかったようだが。


 とはいえ。


「君のスキル――【掌返し】。そんなスキルを持つ者は、この国の王妃には相応しくない。だから改めて言おう。

 君との婚約は、今日限りで無かったことにさせてもらう」


 改めて自分のスキル名を聞かされると、気持ちはわからないでもないな、とシャルロットは思った。

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