1-8. スキルレベルを999にするエリー
スキルには「レベル」というパラメータが付属する。
同じスキルでも、レベルが上がれば効果が高まり、スキルによっては可能なことも増えていく。
スキルを持つ者なら誰でも、少し意識を集中するだけで自分のレベルを確認することができる。
また、スキルレベルはスキルに関連する行動で上げることができる。
例として【火魔法】【水魔法】【木魔法】のような魔法系スキルなら、
◆レベル1~
単純操作(火:小さな火をつける、水:水滴を動かすなど)
本質理解(火:化学反応によるエネルギー放出、水:状態変化など)
◆レベル10~
属性親和(火:火に触れても火傷しにくくなるなど)
◆レベル50~
生成(水:魔力から飲み水を作る、木:魔力から植物を生やすなど)
◆レベル60~
効果付与(火:死霊を浄化する火、水:怪我を癒す水など)
◆レベル100~
属性変質(火:マグマ、水:液化窒素、木:金属の木を作るなど)
といった形で魔法の効果が増え、威力や規模も大きくなっていく。
【弓術】【木工】【鍛冶】などの技能系スキルでも、
◆レベル1~
動作補助(基本的な剣の型が身に付くなど)
本質理解(弓なら物理法則、木工なら空間把握など)
◆レベル10~
技能親和(鉱石鑑定、武具鑑定など)
◆レベル50~
用具生成(魔力の弓矢を生み出すなど)
◆レベル60~
効果付与(痺れる矢、飛ぶ斬撃など)
◆レベル100~
成果変質(霊体を切る、容量拡張鞄を作るなど)
と特殊な効果を持ち、技術や身体能力も向上する。
大変有用に思えるが、レベルアップはそう簡単なことではない。
普段の生活でスキルを使う機会のない者なら、一生で到達するレベルが10程度か、高くても20前後。
【演奏】や【事務】などスキルを仕事にしている者でも、数十年働いた引退間近のレベルが30~50程度。
【剣術】や【鍛冶】などの名人でも、死ぬまでにレベル70に達するかどうか。
一般に「完全習熟」とされるレベル100に至った者は、大国でもお抱えになり、爵位を与えられることもある。
とはいえ、長命種でなければレベル100以上に達することは不可能に近い。
それでも、生活の大半をスキルレベル上げに費やす必要があるし、そこまで上げても普通に生きていく上では、左程の意味もない。
故に、長命種であっても、無理にスキルレベルを上げる者はそういない。と、されている。
「100年間鼻毛を切り続けるなんて、私にはできないなぁ」
そんなことを呟きながら、エリーは森に向け、火矢を放った。
矢の先に油を染み込ませた布を巻き、そこに魔法で火を灯したものだ。
外に通じる門は破壊されているため、エリーの力でも簡単に森への放火ができる。
まだ門番の後任も決まっていないので、人の目もない。
薪や枯れ木ならともかく、森に生えた木に簡単に火が付くものでもないが、何本目かの矢が刺さった頃には無事に引火し、大きな炎が生まれていた。
それを見届けたエリーは、誰にも気付かれないように自宅へ戻り、眠りについた。
火の本質は、化学変化によるエネルギーの抽出。
抽出したエネルギーによる更なる化学変化。
燃料がある限り自動的にエネルギーを得続ける。
【火魔法】の使い手にとって、レベルを上げるのは、そう難しいことではない。
エリーのように、森に火を放てばいいのだ。
鼻毛カッターをどうやって999まで上げたのか、エリーには想像もつかなかった。本人の言う通り、相応の苦労もあったのだろう。
ただ、自然のエネルギーを操る四属性魔法スキル持ちには、やろうと思えば一晩でもできる程度のことだ。
彼らがスキルレベルを適当な所で止めるのは、はっきり言って温情でしかない。
***
一夜にして森が灰になったのだから、エルフの里は大混乱だ。
夜中の内に気付いた者はいたが、既に炎は大きく燃え広がっていたし、何より里の外に出れば一族郎党殺されるのだ。誰も無理な消火は試みなかった。
里が喧騒に包まれる中、エリーは昼前にようやく目を覚ます。
両親はまだのんびり眠っているようだ。
昨日の新女王演説の後はあんなに焦燥していたのに、呑気なものである。
「お腹空いたなぁ……えーと、≪食べられる火≫」
エリーは雑にスキルを行使した。
眼前の空中に鶏の丸焼きの形をした炎が現れ、エリーは半分眠ったような眼のまま、手を使わずにそれを食べる。
「≪飲める火≫」
続けて生み出した液体のような炎で喉を潤し、≪顔を洗える火≫でさっぱりした後、寝巻から≪着替えを手伝ってくれる火≫の用意した普段着に着替える。
レベル999とは、こういうものだ。
理論上の最高レベルであるレベル999に至ったスキルは、「概念操作」という能力を得る。
演算や調整は世界が補佐してくれるので、魔力が十分にあり、想像さえできれば、文字通り何でもできる。
勿論、スキルの本質から遠くなればなるほど、効果距離や威力は極端に落ちるし、同じことをするなら専門のスキルの方が効果は高い。
同じスキルレベルで、同じ棒を扱うなら、【槍術】より【棒術】の方が強くなるのと同様だ。
しかし、ある程度の……具体的には、普通の森エルフ程度の魔力があれば、想像力次第で何でもできる。
ハイエルフには劣るとはいえ、森エルフも能力は高い種族なのだ。
「……何だか、無駄に疲れた気がする」
とはいえ、飲食物の生成や朝の支度は、どう考えても火の領分ではない。
朝から無駄に魔力を浪費したエリーは、今度は自力で寝巻に着替え直し、夕方頃まで2度寝することにした。
概念系スキルは下手に扱うと想像力の低さを露呈するため、憧れだけで挑戦するとコンパチにしかならない危険物。
100年間もかけて、レベル999になるまで鼻毛を切ってレベルを上げてきたような者がいたとして。
その修行期間が仇となって、柔軟な発想力を失うのも、仕方がないことだ。
ハイエルフと森エルフの能力の差は、周囲の森によって生まれる。
森と共鳴して森の力を糧とするのがハイエルフ。
それができないのが森エルフ。
森エルフは、単に森に棲むから森エルフなのであり、森が燃えたところで、その能力は一片たりと翳ることはない。
そのため、ハイエルフは自分達より森への親和性の低い森エルフを「一般エルフ」と呼び、エルフの里ではその呼称が一般化している。
森が無い場所では、ハイエルフと森エルフの違いなど、耳の長さ程度のものだ。
そして、その森は昨晩、灰となった。
要するに、新女王リーシャは確かにレベル999のスキルを有しているが、そのスキルを扱う魔力量は最早エリーと変わらず、概念操作に必要な想像力では大きく劣る。
「これが私の【火魔法】の力だよ!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!?」
エリーの≪一撃で確実に敵を倒す火≫により、リーシャは燃え盛る炎に包まれる。
火が消えた時、黒焦げの女王は既に息絶え絶えの状態だった。
「うっ……まさかこんな……あ、あのお方に……ぐふっ」
かくして、簒奪者は滅びたのである。
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