第8話 神々の<死と滅亡の>運命
僕はどうしても反論できなかった。
彼の言葉がたとえ屁理屈に聞こえたとしても、僕の方には感情論さえ出てこなかったのだから。
「君たちがうつ病だと思っているものも、太陽光エネルギーの不足だとすればどうだろうか?実際、日光浴の利点は君たちも認めるところだろう」
冬季うつという語もあるくらいだ、こじつけとも言えるが妙に納得できる具体例に思える。
「君たちはいつだって、神という存在との対比によって物事を把握してきた。そう、神とは光そのものだ。ある時は自身を戒める対象物として、またある時は、人間らしくあるために克服しなければならない権威として。だがそれもやはり、造られた者としての本能なのだろう。それに関しては我々も興味深く見守っていたよ」
「…………この際、僕らがどういう存在であるか、みたいな哲学論議はどうでもいいんです。確かにとても衝撃的です。ですが閣下は彼女がロボットだから死とは違う形で活動停止したとおっしゃるのですか」
「概ね間違いはない」
「だとすれば、閣下の望みはなんですか。僕達の正体はどうであれ、これまで通り自由を要求するのは動物でも何でも当然の意志でしょう。しかし閣下はどうです、何の目的と大義名分があって、地球を制圧し、国連と戦争し、そして鳥羽ちゃんの機能を停止させたんですか!」
「平和のためだよ君」
それは想像していたものとは違ったため、勢いづいたのに再び、閣下とロボットのようなものという圧倒的差が生じてしまった。
「君という人間的な
「僕が引き金とでも?」
「左様。しかし解釈は違う。君は原因という比喩として言ったのだろうが、朕にとって君がトリガーであるのは、良くも悪くも必ず結果を生じさせる存在であるからだ」
「しかし現に君は、歴史に名を残す行動を取っているではないか」
確かにそうかもしれない。だがそれは、僕という一般人を利用することで、ある種の文化政策を行っているのかも。
「そこで一つ君に尋ねる。君は人類と腕の中の少女のいずれを取る?」
「…………はい?」
「合理的には人類を取ることになるだろう。それに君は生身の人間が好みでないようだね。そうすると君は英雄と恋愛対象の両方を得ることになる。しかし、その少女を蘇生させたいと望むなら、我々同様、相当量のエネルギーを要する、それに少女だけが優遇されても君の寿命が明日だと、朕とて悲嘆せざるを得ないので、君の分もエネルギーを消費することになる。
それを可能とするには、無駄に増えた彼らのエネルギー源たる太陽光変換システムを停止させる必要がある」
人類か、鳥羽ちゃんか。
哲学議論の末に持ち出されたのは、途方もない思考実験で。
「ここで一つ考えねばならないのは、彼らは放っておいても死ぬ運命にあるという点だ。それは寿命という意味のみならず、無謀にも開戦を宣言したという愚行ゆえだ」
どちらを選べば幸せになれるんだ………?
「今すぐ、とは言わない。しかし、君が帰ったとして、丁重に扱うのは彼らの方だと思うか?洗脳の末に、人類を選ばせるか、君に爆弾に仕立て上げるかもしれない、というのもよくよく考えたまえ」
今か、将来か。
悩みの本質でも追求しているのかと言わんばかりの無理難題に、いっそのことキャパオーバーで狂ってしまいたかった。
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