第3話 愛なき戯れを重ねて
「とは言ったものの………」
入浴も忘れてスラックス姿で寝落ちしていたのもあって、思考はまるまる山積みで、翌朝という区切りよりも、延長線上であると再解釈するのが当然の運びだった。
『定時ニュースです。本日、国連は【マジェスティ】との談合を予定通り、開催するとの模様です。佐々木先生、改めて、【マジェスティ】というのはどういった存在なのでしょうか。そして今回の談合によって、私たち市民への影響というのはどういったものが考えられるでしょうか』
『まず、【マジェスティ】とは科学的に申せば高次元存在、馴染み深い表現であれば、異世界人とも表現できるかと。先日の官房長官の発表では、【マジェスティ】は2001年に初めて存在が確認され、度々、接触を行ってきたとのことですね。その結果判明したのは、【マジェスティ】は高次元存在と先ほど申した通り、地球の文化レベルを遥かに上回る高度な存在であることが分かったのです。【マジェスティ】は戦争の絶えない地球を統合する事を目的に現れたとの事です。
まさ、我々への影響という点では、第一に【マジェスティ】による統治を認めた場合、国家という概念が言わば消滅することになるでしょうね。私たちは【マジェスティ】の統治下にある「地球市民」となるでしょう。
反対に、【マジェスティ】の言い分を国連が却下した場合、地球の統治権をかけた未曽有の大規模戦争に発展する事になるはずです。
今回の談合は、統治を認めた場合の我々の人権と自由の確保、もしくは戦争回避に向けた折衷案の草稿が期待されます』
「大変なのは僕だけじゃないってか」
電源を切ると、僕はリモコンをベッドへ放り投げた。7時半、登校の時間だ。
僕が幼い頃からというより、その頃はUMAやUFOに妖怪、そして陰謀論など、オカルトが神秘ではなくようやく娯楽として定着しだしていた。
僕も小さい頃は怖がりながらも世界中の心霊映像を放送する特番や、アダムスキー型UFOのドキュメンタリーなどをよく見ていた。
そしてそれらの娯楽は一体化し、宇宙人と陰謀論がセットで語られるなど、コンテンツとして成熟しだした。エリア51の秘密をいずれ明かすと宣言したり、政府がUFOと遭遇した際のマニュアルを作成しだすなど、いよいよアニメやラノベ同様、現実味を要求しだした。
だが実際は、【マジェスティ】なる存在への対処を、一般人が誤解していただけだったのだ。
連日、ニュースにその名が出ない日は今や無いに等しいが、不思議と僕はそれほど緊迫感を覚えてはいなかった。
病気が流行しても予防接種に関心が惹かれない人間性だからかもしれないが、ともかく【マジェスティ】が人間にとっての脅威である事は認知しているのに、どうにも怯えることはないのだった。
「もしかして、先生?」
「あ、おはよう」
「やっぱり早乙女先生だ!スーツは?」
「今日はお休みだから、スーツは着てないよ」
もはや誰しもが知っていることなのに、自分から大学生である事を明かしてはならないという鉄則は、どこかCIAやMI6と似ている。
「そーなんだー。じゃあさ、今日一緒にその……」
「え?」
「デート、いきませんか?」
相変わらずこの子は、人目を気にせず大胆な発言を。
いつぞやみたく車内ではなかったので、それほど他人の耳には入ってないはずだが、その分、目撃情報も増える可能性が。
「鳥羽ちゃん、今日学校でしょ。どうしてこんな時間に駅に居るのかな?」
「創立記念日だも~ん」
お説教作戦、早くも失敗。何がCIAだよ。
「告白オッケーしたじゃん!」
「じゃ、じゃあさ、映画とかはどうかな」
デートの定番だが、個人的に映画が王道コースになり得たのは、きっと映画館が比較的自由で、キスなどを行う文化も盛んであったおかげであり、別に黙って一緒に居たいからではないはずだ。
それに、映画は偶然を装うことも難しくない。
もし誰かに非難されることになっても、一緒に行動していたというより、偶然、同じものを観ていたに過ぎないという言い訳が成り立つ上に、鳥羽ちゃんにしても満足であるなどなかなかに良案。
今後の人生の波乱を思えば講義など…………
幸か不幸か、大きな映画館のあるショッピングモールが駅に隣接しているため、そそくさと僕たちは向かった。
空には絵に描いたような入道雲と、【マジェスティ】の要塞空母『
「まぢゅすてぃ、じゃなくてまじゅ、うう」
「マジェスティね」
「そう!何だか怖いよね」
「そう、だね」
これまで人類は幾度となく戦争を繰り返し、その度ごとに戦争賛美と平和論とが入れ替わってきた。
僕らの生きてきた数十年間と、それ以前は確かに世論は平和論者であったはずなのに、統治を拒むという正義によって、今では戦争やむなしとの意見をよく耳にする。
「でも、おじいちゃんも言ってたよ、世界には未来よりももっと偉い人がいるって。まぢゅすてぃも大統領みたいな感じじゃないの?」
「僕はヴンダーカンマーに関わるものしか…………」
普段は博物学者気取りであっても、その目に映るのはこの少女ですらないのだから。
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