第56話

「赤一色で見事なまでに消防車ですね」


ソールシュルテンのダンジョン騒ぎを終息させてから3日、話していた消防車が完成したとカナデさんから連絡があったのでカナデさんの研究所前で消防車を見せてもらってる。


「まぁ、わざわざ形を変える必要も無かったからね」


確かに、消防車の形をわざわざ変える必要はないか。時間があればオリジナルの消防車を作ってたんだろうけど、今はそこまで時間が無いからね。



「と言っても同じなのは見た目だけで中身は別物だけどね」


空間拡張された貯水タンクが内蔵されているおかげで消防車1台だけでもかなりの時間放水することが可能だ。

最大で1台8人まで同時に放水できて、その状態だと約3時間水の補給なしで放水を続けることができる。


それに狭いところにも対応できるように重力魔法を利用して、飛行船程の高度は出せないけど浮いて移動することも可能になっている。

当然だけど浮遊状態は魔力の消費が激しいので基本はタイヤで地面を走って移動する。


「とりあえず、消防車の性能を測るために訓練場に移動しようと思うんだけど。コウダイくんは時間ある?」


「問題ないですよ。ソールシュルテンの騒ぎ以降グラトニーは大人しいし。それにグラトニーの対策兵器な訳ですし、消防車の性能確認が1番重要な案件ですし」


「それなら早く移動しよう。消防車に乗って」


運転したくないので、素早く助手席に乗る。

車の運転ができない訳では無いけど、得意じゃないし。普通車サイズならまだしも、消防車みたいな大きなサイズの車の運転はまじで事故を起こすと思う。


「こんな大きい車私も運転したくなかったんだけど…まぁキュアノス島でなら万が一事故ったとしても、ダメージを受けるのは消防車の方だろうし、安全運転で移動すれば何とかなるかな」


私も運転したくないと言うカナデさんに向かって全力で首を横に振って絶対に俺は運転しないと意思表示をする。

カナデさんの言った通り、建物とかに擦っても素材の関係上、傷つくのは消防車だけだろうし。

万が一人を轢いても、キュアノス島にいる人達なら無傷だろう。

だからと言って事故を起こしてもいいと言う訳では無いけど。


「アイテムバッグに仕舞って持っていったり、コウダイくんの転移で消防車ごと移動しても言い訳だけど。それじゃあ、消防車の性能試験にならないし」


わざわざ消防車を運転しなくても消防車を訓練場に運ぶ手段はいくつか存在する。


けど、それをしてしまうと消防車の性能試験にならないので使わない。


消防車に1番求めているのは放水による多くのグラトニーの相手をすることだけど。機動性も確認しておく可能性もある。


「そろそろ発進するけど。運転しない分コウダイくんは人が近づいて来ないかとか注意しといてね」


それぐらいはしないと流石に申し訳ないよね。


「整備されてない道でも全然揺れないですね」


見た目はただの消防車だけど。整備されてない土道を走らせてもほぼ揺れない。

地球の消防車じゃこうはいかないだろう。

魔法かなんかを使って衝撃を吸収してるんだろう。


「そこら辺は結構気を使っているからね。整備された道なんて少ないからね。山道を余裕で走れるぐらいの走破性能が無いと車なんて使い物にならないからね」


たしかにカナデさんの言う通りだ。

ただ、オフロードタイヤでも無いし4駆でもない消防車でそこまでの走破性ってまじで凄いよな。


「普通に走るのはそろそろ良いかな。ここからは飛んで進もう」


そう言ってカナデさんがハンドルの近くにあるボタンを押すと消防車が50センチ程浮かび上がる。


「飛ぶような形じゃないのに、無理やり飛ばしてるから。魔力の消費が激しいし、50センチ浮かぶのが限界なんだよね」


今は俺の魔力を消費しているので魔力に関しては気にする必要は無いけど。

消防車に初めからチャージできる魔力量じゃ30分飛ぶのが限界らしい。


「飛ぶだけ凄いと思うけどね」


「燃費が悪すぎるのがどうもね…。翼でもつければ消費魔力が減るんだろうけど。消防車がまたデカくなるのはどうかな?と思ってね。ちょうどいい所を決めるのは本当難しいよ」


自分が欲しい性能を全て乗っけるのは難しい。そいう時どこを妥協するかそのラインを見極めるのは大変だ。


「まぁ、素材を気にせず最高級の物を使えば問題は解決するんだけど。消防車はコウダイくん達が使うんじゃなくて、他の国の人達が使うものだからね」


この消防車は量産して親交のある国に配る物だからね。

あまり高級な素材を使っちゃうとちょっと問題が有るから。

俺たちがいつも使う素材に比べたら数段劣る素材を使って作っている。

カナデさんの納得いかない性能しかだせないのは、これも理由のひとつだろう。


「飛んでるうちに少しでも訓練場に近づくためにもう少し速度をだすか…少し揺れるからしっかり掴まっててね」


カナデがそう言ってアクセルを一気に踏み込むと急加速する。

急加速すぎてシートにピッチリ背中がくっつく。


「これなら飛んでる間に訓練場に到着できそうですね」



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読んでいただきありがとうございます。

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