第2話

「ほらやっぱり」


流石にこれならなにかイベントが発生することは無いだろうと、人の目が届かないシマヅから少し離れた磯から上陸して、冒険者として町に入るつもりだったんだけど…。


「あれは馬車が鬼に襲われてるってことで良いのかな?」


目の前では武士と身長は2m越え、背中から4本の腕が生えていて、更に額に角が生えている存在が戦闘している。

角が生えてるし多分鬼だろう。


戦況は武士達の劣勢。すでに何人も引き裂かれて殺されている。

武士たちの後ろには横転した馬車が見える。

おそらく大名家(ダイワの貴族)の人物が乗っていると思われる。


様子を見ている間に背中から生えてる腕で武士の刀をつかみへし折ってしまった。


「流石に無視して進むって言うのは嫌だし。これ以上被害が出る前に鬼を排除する」


武士と鬼の間に転移して鬼を蹴り飛ばす。


「劣勢そうでしたので勝手に介入させて頂きますが、どうかご容赦を」


武士たちに向かってそれだけ行って蹴り飛ばした鬼の方に向かう。

手加減して蹴ったので、まだ生きてるはず。

あばら骨が何本か折れてるぐらいで済んでるはず。


「そう言えば、酒呑童子と茨木童子以来の鬼だね。いつまでも寝てないでさっさと起き上がったら?」


流石に両断された腕が生えてくるとかは無いけど。骨折ぐらいなら早いと数秒で元通りに治るって酒呑童子から教えて貰ったからね。


目の前の鬼も俺が油断して近づいて来るのを待ってるだけだろう。


と思ったんだけどおかしいな?鬼がピクリとも動かない。


「ごめん。コウが蹴り飛ばした後、私が超音波を使って心臓破裂させちゃった」


心臓が破壊されたなら鬼でも致命傷だろう。


シャルはディルフィーニと言うシロイルカの姿をした幻獣種。

エコロケーションと言う超音波を発して地形や物体までの距離、方向、大きさを調べることが出来る技術を使う事が出来る。


ただ、それだけでなく。超音波を攻撃に使うこともできて、今みたいに生物の臓器を破裂させるって芸当も可能。

実際にはただの超音波じゃなくて魔力を使って生み出した特殊な超音波らしいけど。

目に見えないし凄い厄介な攻撃だ。

一応、魔力で防御することは可能だから、もしディルフィーニと戦闘する時はずっと自分を魔力で保護しておけば防げるかも?

そう言う相手の対処法も当然考えてあるだろうし、魔力で保護しただけじゃ痛い目をみる事になるだろうけど。


「倒したんなら問題ないよ。とりあえず鬼の死体を持って武士たちのところに戻るか」


念の為、首を切り落としてから胴体に紐を結び、武士達の所まで引きずって戻る。


「話の前にけが人の治療をするべきだな」


武士のところに戻ると、倒れていた馬車を盾に隠れていたのか、けが人が思ったより沢山いたので先に治療を済ませてしまう。


「助けていただきありがとうございます」


治療が必要な人の治療が終わって、横転している馬車を重力魔法を使って元に戻していると、大名の娘さんがお礼を言いにやってきた。


「たまたま通りがかって、進行方向にいて邪魔そうな鬼を倒しただけなので気にしないでください」


ちなみにこうなってしまうと普通の冒険者設定で行くとややこしい事になるのが容易に想像できるので最初に水の精霊王だと名乗っている。


「それが無かったら、もっと多くの犠牲が出ていました。これだけの被害で抑えられたのは精霊王様のおかげです」


確かにその通りだ。俺達が来なかったら恐らくここで全滅していただろう。

奥の手とかがなければ。


「それもそうか。じゃあ、もうお礼は受け取ったってことでこの話はおしまい。馬車は大丈夫そう?」


派手に横転してたからな。俺が元に戻した後に確認してたけど、修理しないと動かせないかも知れない。


「応急処置でどうにかシマヅまでは移動出来るらしいです」


それは良かった。馬車が応急処置も不可能なぐらい壊れていたら帰るの大変だしね。

30分歩けばシマヅに着く訳だからまだマシだと思うけど。


「ただ、馬車を引く馬がいないので、動ける武士がシマヅに先行して応援を要請しに行って貰っています」


あぁ、そう言えば馬がいないかったな。


そうなると、早くても1時間ぐらいかかるかな。ここから移動を始めるには。

迎えが来るまで待つ必要無いっちゃ無いけど。迎えが来るまで護衛をしてあげよう。


暇つぶしを兼ねて色々話を聞いてみると、婚約者に会う為に向かっている途中だったみたいだ。


お礼をさせて頂きたいので、ぜひ父の領地にも来て欲しいと言われたので、機会があったらと少し曖昧に答えておいた。

水中ダンジョンの攻略が終わったら行って見るのも良いかも知れない。


あっという間に時間がすぎて、数台の馬車と数十人単位の武士が馬に乗って迎えに来た。

助けた女性の婚約者でシマヅを含むここら一体を統治する大名の息子も心配すぎてついて来ていた。

婚約者を助けていただきありがとうございます。と泣きながら言われて、やっぱりいい事をするのは気分が良いなと思った。


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読んでいただきありがとうございます。

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