第13話

ハジメくんに会うために領主の館に歩いて向かっていると途中でいくつもの馬車が追い越していく。

ハジメくんに会うためにここまで来た、貴族や商人達だろう。紋章は数台有るか無いか程度なのでほとんどが商人だろう。

貴族の馬車も当主本人が来ることは無いだろうから名代が乗っているのだろう。

これはハジメくんの館の前で長蛇の列ができてそうだ。

本当だったら今日中に会えないかもしれないけど、わざわざこの列に並ぶつもりは無いし。多分大丈夫だろう。

ちゃんとハジメくんにアポとってる人はちゃんと優先して貰うけど。

でも、アポに関してはとってない、それ以前にそんなコネがない商人がほとんどだろう。じゃなきゃわざわざ並んで待ったりしないだろうし。

そのまま館に向かっていると、1台の馬車が突然道を塞ぐように止まった。


「君が着ているその服はアラクネの作った服じゃないかい?」


「その通りですけど何か?いきなり馬車で道を塞ぐようなことをして、何様のつもりですか?」


下手したら俺を殺すつもりだったんじゃないかと言う行動に若干腹をたてながら返事を返す。


俺の態度に護衛の1人が剣に手をかけようとしたが話しかけてきたおっさんがそれを辞めさせる。


「それについては申し訳ない。ある日突然アラクネ達が住んでいた場所から全員居なくなっていたから、何かあったのかと心配していたところにアラクネ製の服を着ている君を見つけて、つい…」


彼女達の元住んでいた場所を知っているとなると傭兵国の商人か。

リースさんが傭兵国は泥沼の内紛中だって教えて貰ったけど、傭兵国を見限って逃げてきたのか?それともどちらかの勢力に組みしていて何か目的があってリンファス王国に入国してきたのか。俺と交流がある国で傭兵国と隣接してるにはソールシュルテンだけだし。

隣接してると言っても山を挟んでなので大した影響は無いだろうと思っていたんだけど。


「アラクネ達の住んでいた場所を知っているとなると、あなた達は傭兵国の商人ですね?入国出来ている以上、リンファス王国で悪事を働こうと考えてる訳では無さそうですが。なんの為にリンファス王国に?」


少し威圧しながら問いかける。

魔力の隠蔽をしていたから、何処にでもいるただの青年だと思っていた人物が急変して、相手は凄い驚いてる。

と言うかさっきから気になってたんだけど。

なんで町の警邏隊は到着してるのに介入してこないんだよね。野次馬が近づかないようにするだけで。

巻き込まれたくなかったら離れてください!死にたくないでしょう?って言ってるのが聞こえるし。


ハジメくんは部下に俺をどんな風に話してるんだろう?後で問い詰めよう。


「傭兵国はもはや国として機能していません。どちらの勢力も皆を救うためだと物資を簒奪していき、やりたい放題です。なのでせめて自分の手が届く範囲だけでもと大規模なキャラバンを組んでリンファス王国まで逃げてきました。キャラバンと言っても教会の孤児院で暮らしてるような孤児達がほとんどなので、難民と言うのが正しいかもしれませんが」


「なるほど。ここなら絶賛開拓中だし、住む場所も用意しやすいだろう。悪い人じゃ無さそうだし。アラクネ達も同じ感じだよ。その内紛のせいで同じところに住んでるのはまずそうってことで移住先を探してた時に俺と会ってね。俺が住む場所を用意してあげた代わりに彼女達は服をくれた訳。この町にもそのうちアラクネ達が作った衣類を販売するお店をだす予定だから、この町に住むならそのうち会えると思うよ」


「町に彼女達が?直接無事を確認できるのは嬉しいですが…。彼女達が直接商売をするのは危険では?」


違法な奴隷商人や悪徳貴族に目をつけられて危険では?と純粋に心配しているようだ。


「それに関しては、ちゃんと考えてあるので大丈夫です。この国の貴族で俺にちょっかいかけてくるような人ももうほとんどいないだろうし」


「え?ちょっかいをかけてくる貴族はいない?」


「ただの平民なんだけどね?そうだ、俺からもアラクネ達にみんなのこと知ってる人が居たよって伝えたいから、名前教えてくれる?」


「エイボン商会のサラーです」


「サラーさんね。おっけー覚えた、じゃあもうお互いようは無いだろうし俺は行くね」


引き止められるより早くその場を後にした。


ーーーー


「はぁ、何事も無く済んで良かった。全くサラー、町でも評判のいいお前が問題を起こすし。よりによってなんで相手があの御方なんだ」


「やっぱりただの青年では無かったんだね」


突然争った形跡も無いのにアラクネ達が誰一人居なくなっていて心配していた矢先にアラクネ製の服を来た青年を見つけ、ついあんな事をしてしまったが、そもそもアラクネ製の服を着ている人物がただの一般人な訳がないと途中で気づいたのだが全てが手遅れ。

なんのお咎めもなしに話が終わってサラ一安心していた。町で問題を起こしてしまった以上何らかのペナルティが課されるのは覚悟しているが。


「あの人は水の精霊王様だ。ここの領主様と一緒にこの世界を乗っ取ろうとした邪神を討伐した御方だよ」





読んでいただきありがとうございます。




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