第5話

「クソ!攻撃が当たらない」


学生たちと合流して昨日と同じくダンジョンに向かう11階層からは10階層までには出てこない新しい魔物が出現するようになってるんだけど、その魔物に苦戦中だ。


「さっきから木の上をちょこまかと…サイズも小さいからさらに当たらない」


新しく増えた魔物はしっぽの長い小さな猿。

しっぽでバランスをとって細い木の枝の上だろうと全速力で移動する。木の上にいるだけで射線が通りにくいのに枝の上をちょこまか動いてこちらの攻撃を避ける。ならばと枝を攻撃して地面に落とそうとすると事前察知して他の枝に逃げる。このダンジョンは森林タイプなので木の枝をどんどん落としていけば逃げ場が無くなると言う戦法もとれない。

厄介極まりない魔物だけど、攻撃方法が野球ボールサイズの石を土属性の魔法を作りだして投擲してくると言う、ちょっと残念な攻撃しか持ってないので脅威度で言えばムーンベアーの方が何倍も高い。


投擲された石が頭に当たったら脳震盪を起こすぐらいの威力は有るので弱い訳じゃないけど、相手は魔物なので攻撃が直撃脳震盪程度で済むと言う評価になってしまう。


攻撃が中々当たらないし、倒してもドロップにいい物も無いので冒険者にすごく嫌われている魔物だ。


この魔物が1番嫌らしいのは、もう少し下の階層に進むとほかの魔物と一緒に行動するようになるところだ。

ほかの魔物に集中しすぎると横から石を投擲されて隙を作られてしまう。

だったらと先に倒そうとしてもすばっしっこいスピードタイプなので、中々攻撃を当てられなくて上手くいかない。


冒険者からしたら、強くは無いけど戦いたくない理由を詰め込んだ魔物が、この猿の魔物だ。


「そんなヤケになって攻撃しても避けられちゃうよ。このままじゃ相手の思うつぼだから一旦落ち着こう」


彼奴、煽っているつもりなのか、攻撃を避ける度にキィキィ鳴くんだよね。

そのせいでどんどんイライラしちゃって攻撃が単調になって避けられて煽られての無限ループに陥ってしまっている。

簡単に手を貸すのも彼らのためにならないから大人しく見てたけど、このままじゃ終わらなそうなので手を貸すことにする。


「ああ言うスピードタイプはまずはダメージを与えると言うより、動きを鈍らせたりする事を考えると倒しやすいと思うよ。例えば」


ビー玉サイズのちっちゃい氷を50個ぐらい密度を低めに猿の魔物に向かって飛ばす。

俺の場合これでも、当たれば倒しちゃう威力が有るので、当たってもアザが残る程度の威力に調節する。

速度も普通だとあの猿じゃ避けれないレベルの速度になるので、学生たちが撃ってる魔法の速度と同じぐらいに調整する。


猿の魔物に向かってばら撒くように飛ばした氷を猿の魔物は完全に避けることができず、数発被弾する。

当然、ダメージと言うダメージは入って無いけど、攻撃が当たったことによって数秒硬直してしまう。

数秒でも動きが止まればじゅうぶん魔法を当てることが可能だろう。

そのタイミングで氷の刃を飛ばして、猿の魔物を縦に真っ二つにした。


「他にも罠を用意してそっちに逃げるようにしたりすると良いかもね。そう言うことを冷静に考えさせないよう煽って来たりする訳だから、本当に嫌な魔物だよ。大体このドロップのしっぽって何に使うんだよ」


もし、ダンジョンに意思が有るならこのダンジョンの意思は相当曲がった性格をしているに違いない。


学生たちが攻撃が当たらなくてヤケになり考え無しで魔法を使った結果。

ダンジョンに入って数十分しか経ってないけど早速休憩をする事になってしまう。


しっかり休憩をとって、魔力と集中力を回復させてダンジョン探索を再開させた。


変に苦手意識を持つ前に猿の魔物と再戦してもらう。

案の定、魔力感知で猿の魔物は避けて進もうとしていたので俺が無理やり再戦させた。

下の階層に進むと他の魔物と一緒に出てきたり普通にするから、変に苦手意識を持たれると下の階層を目指せなくなってしまう。

実際そういう冒険者も一定数いるらしいし。


「まぁそんなに緊張しなくても、休憩中にちょっと練習したことが出来れば簡単な相手なんだから大丈夫だよ」


そんな感じで緩く話していると猿の魔物はチャンスと思ったのか初手から石を投擲してきた。

大した速度でもないので体を少し捻るだけで避ける。


学生の中で風属性の魔法に適正がある子が猿の魔物に向かって強風をふかせる。

本当にただの強風なのでダメージは当然ゼロ。だが、移動の阻害という点では大活躍だ。

1歩も動けない訳じゃないけど動きは鈍くなっている。

自慢のスピードを封じられた猿の魔物に勝ち目なんてあるはずも無く、猿はいいとこ無しで即退場と言う結果になった。


「こんな感じでダメージを与えるだけが魔法攻撃じゃないって事を覚えておくと戦闘が楽になると思うよ」


詠唱魔法にはそう言う魔法がないから、こう言った魔法の使い方する人ほとんどいないんだよね。残念なことに。





読んでいただきありがとうございます。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る