第7話

「思ったより、人がいっぱいいるんですね」


転移結晶を消費して、地の大精霊が封印されているダンジョンの近くに転移して目に入ってきたのは沢山の人が列を作りダンジョンに入る順番待ちをしている光景だった。

入口近くは整地されていて天幕が張られてお店も経営しているようだ。


「大精霊様たちを救出出来なければ、人類は滅亡するしか無いですから。国や冒険者も必死で攻略しています。私は今から仮設の冒険者ギルドに行って、階層の情報が得られないか確認してきますので少しお待ちください」


そう言ってレックスさんは天幕の一つに向かっていった。


すぐには終わらないだろう。だからと言ってわかれてその辺ぶらぶらするのは良くないし、かと言って全員で仲良くお喋りするぐらい仲がいい訳でも無いので何をして待っていようか考えていると、後ろから突然声をかけられた。


「…水の大精霊様?」


ここで振り向かなきゃ言い訳出来たんだろうけど、本当に突然だったので思わず振り向いてしまう。

やってしまった!と思ったけどもう遅い。


「オイオイ、幾らハイエルフのシルファだって見間違いだろうって思ったのにホントに水の大精霊様なのかよ!?」


ハイエルフだから俺が精霊のハーフって気づいて水の大精霊って勘違いしてるのか。


周りもハイエルフが言ってるんだからホントなんじゃ…って感じだし、精霊に関してはハイエルフに対する信用は高いみたいだ。


「確かに俺は水の精霊だけど、この世界の水の大精霊とは別の存在です。勇者の召喚に巻き込まれた。こことは別の世界の水の大精霊です」


本当は水の精霊王だけど。大精霊も精霊王もやることは同じみたいだし嘘は言ってない。


「じゃあ、水の大精霊様はまだ捕まったまま?」


「残念ながら」


「…そう。ごめんなさい勘違いだった」


そう言ってハイエルフの女性は帰ろうとしたけど、隣にいた男性が待ったをかけた。


「いやいやいや、なんで今の流れでそのまま解散って雰囲気になるんだよ!ツッコミどころ満載だったろ今の会話」


「あの方が水の大精霊様なのか違うのか分かればじゅうぶん」


「シルファお前ってやつは…。悪いが俺からも幾つか質問させて貰って良いか?」


変に疑われるよりかは質問に答えた方が良いだろう。

どうでも良いけどあの男の人苦労人の気配がする。いっつもハイエルフの女性に振り回されてるんだろうな。


「答えられる事なら」


「異世界から勇者を召喚するって噂になっていたんだが、本当に召喚されたのか?」


「俺は巻き込まれたオマケだけどね。あそこの3人組の男の子が勇者だよ。ここにいるんだから、何をしに来たのかはわかると思うけど、地の大精霊を解放と勇者達のレベルアップが目的」


ハルくんがオマケが最強です。とか言ってるけど無視しよう。


「成程、絶望しかなかった人類に少しだけ光が見えてきたな」


さっきまで俺に向けられていた視線が勇者であるハルくんに向けられる。

ちょっと居心地が悪そうにしてるけど、これも勇者の宿命だと思って我慢して欲しい。


「蒼天の翼のお2人ですよね?最高ランクのお2人に失礼な依頼だとは思いますが、ダンジョンの案内をお願いできないでしょうか。一刻も早く大精霊様達を解放したいのです」


カルアさんの話から察するにこの世界最高位の冒険者が目の前の2人らしい。

本来だったら人数が増えるのは好ましくないけど、この2人が道案内してくれるなら短期間でダンジョンを進めるかもしれない。


「私たちダンジョンから出てきたばかり、だから断る」


「お前!断り方っていうものがあるだろうが、相手は姫様だぞ?と言っても俺もシルファと同じ意見だ。2ヶ月もダンジョンに潜りっぱなしで今日地上に戻ってきたところだからな。疲労もだいぶ溜まってるし、幾ら俺らでも直ぐにダンジョンに潜るのは難しい。

疲れからつまらないミスをする可能性もある」


2ヶ月ダンジョンに潜ってて出てきたばかりなのに今からもう一度って言うのは酷だよね。


「そうだったんですね。知らなかったといえ無理を言ってしまって申し訳ございませんでした。さっきの話は忘れてください」


「いや、大精霊様を早く解放したいのは俺たちも同じだ。各階層の情報は提供させてもらう」


男の人がそう言ってステータス画面を開いた。それに合わせてカルアさんもステータス画面を開く。

何してるんだろう?


「貴重な情報、ありがとうございます。お礼は必ずさせて頂きます」


「報酬なんて頂けませんと言うべきなんだろうが。結構命懸けだったからな、期待させて頂きます」


そりゃそうだろう。


「カルアさんちょっと質問なんですけど、この2人なら野菜の魔物って余裕ですか?」


「このお二人からしたら余裕だと思いますが…お2人に例のお願いをするつもりですか?」


「例のお願い?」


2人にお金じゃ無くて野菜の魔物でドラゴン装備を売る話があると説明する。


「まじかよ。とんでもね話だなそれ、装備を作るのに多少時間はかかるだろうし、その間を休憩期間にできるし…シルファ俺は受けたいと思うんだがどう思う」


「大精霊様はこの方がいればきっと解放できる。私たちは食料確保に回るべき。ドラゴン装備も欲しい」


ハイエルフの女性シルファさんがそう言う。

だいぶ俺の事を信用してくれてるみたいだけど精霊だからか。


カルアさんが2人の事情を書いた書状を渡し、2人は早速王都に向かうらしく転移結晶でこの場から去っていった。




読んでいただきありがとうございます。

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