手紙

私に小説を書く才能は無いが、

長く生きていれば、誰でも変わった経験の一つくらい語れるものと思っている。


ある日大学生だった姉が、駅からの帰り道にラブレターを渡された。姉は小さい時から可愛かったので、祖父母や両親の自慢であった。大学卒業後には地方ローカルのタレントになったくらいだ。


姉が駅を出たら渡されたというそのラブレターは、前々から駅に向かうのを見かけて、恋してしまったというもの。そして駅前で〇月〇日、○時に駅前で待っているのでよければ会ってほしい、と。

そこまでは普通だった。


だが、名前が白鳥飛鳥しらとり あすかだった。


こう言ってしまうと全国の白鳥さんと飛鳥さんには申し訳ないが、どう見ても偽名である。女の子に交際を申し込もうというのに、偽名?!怪しいことこの上ない。

なんで鳥が二回も入っているのか。そのセンスに不安になった母と私が、車で約束の場所に偵察に行ってみた。


いた。

白い車に乗った、見るからにヤンキーの男。

そうか。ただのヤンキーセンスだったか……。漫画みたいなやつもいたものだ。コイツ、偽名を使って相手に怪しまれるとは思わなかったのだろうか?

でも断って逆上されたり、車で拉致られても困るので、姉には通学時間をずらすように言っておいた。


手紙といえば、姉が、とあるちょっと堅めの広報番組に出ていた時のこと。

ファンレターが添えられたプレゼントが送られてきた。姉は手紙にざっと目を通して何とも思わなかったようだが、私は、もの悲しさとうすら寒さを覚えた。


その手紙には、いつも番組を見ていてファンであること、手紙の主の将来の夢などが書き綴られていて、自分は障害があって外に出られないとも書かれていた。そして先日のバレンタインデーでという、おにぎりとチョコレートをありがとうというお礼で締めくくられており、プレゼントはコケシだった。







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