第7話 そんなにガツガツはしてない


「よっしゃ、歌えや、踊れや!とりあえず座れや!」


「落ち着けっての。始がそんなんなら始められないだろ」


「おっと。こいつツッコミ役の真野照史な。魔神で有名な」


「誰が魔神だ。太っても痩せててもどっちも似てないからな」


「おー。ノリいいじゃん。やっぱ忠犬つきの飼い主様を連れてきて正解だわー」


幹事の首藤と場を作って、とっかかりとして集団の中で、ちょっとした立場を作っておく。


そんな風にして陽キャでも隠キャでもないどっちとも取れる立場に身を置くにはメリットがある。


つまりは相手に幻滅される可能性が少ないからこうしているんだけど、自分は学年一位だし、忠犬の飼い主ときた。他人に嫉妬される材料としては揃いすぎていて、自分でも鬱陶しい。


「え・・・?意外も意外。飼い主さん結構喋るんだね」


そんな反応を若生以外の他の連中が俺に向けるくらいには、最近お互いに勉強漬けで完全にコミュニケーション不足なのである。


体育祭で運動神経がどうとか、文化祭でモブだったのかそれとも中心人物だったのかとか。そんなもう過去になってしまった祭りでのクラス内での立ち位置からでしか、お互いの印象はわからないものだ。


だが、ここにわかりやすく変わったやつがいる。


凛花のことだ。


「それよりなんだ!?今日はコスプレするって聞いてたけど、ここまでするって聞いてないぞ」


馬の被り物をしながら喋っている彼は千葉雄大くん。となりのクラスで、イベントは何でも参加する『皆勤賞』で有名である。


この男は、誘えばまず断らない。用事がブッキングしても半分ずつ出るなど名前に恥じない頑張りようである。色々参加しすぎて金欠がちになるんだとか。


「・・・かわいいものは早い者勝ち。でもむいむいのもかわいいよ?」


「凛花、人はやっぱりモフモフに弱いんだよ。わたしの動く猫耳はモフモフって感じじゃないしなぁ」


でもそこにふさふさの雄のライオンさんの被り物してるやつがいて、喋りたそうにこちらを見ている。


それに気づいた首藤が反応した。


「えーっと?亀山だっけ?」


「そう、亀山敬人(かめやまよしと)」


「一緒に来た彼女は鶴じゃ無くて羽田萌音(はたもね)さんね」


まさかのカップルで参加ときた。合コンというのは男女の数だけ揃えばなんでもアリらしい。カップルが参加したところでぼっちなやつが生まれてしまう悲しさは消えはしないのに。


しかし、カップルが参加することで微量ながら安心感が生まれるのも事実。


カップルの2人と友達である=安全なやつである、という式になってな。それを証明するにはちょっと今は時間が足りない。


「このメンバーで本気のハロウィンパーティーしてもいいかもしれん」


そんなこと言って千葉くん本人は、カラオケ屋に置いてある誰でも借りられる被り物だ。1円もかかっちゃいない。


そういえば、今の時期はゴンキホーテや百均にハロウィングッズが並んでいるな。


「ハロウィンコスに逃げなかったおまえらすごいな。わかってるなぁ〜」


首藤がそんなことを言うが、誰もその言わんとした意図なんてわからない。


ただ、この流れでわかることは、少なくともこのメンバーでもう一回集まりそうだということであった。

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