第5話 首輪と変化

「そ、それはダメじゃない?あっくんが教師になるためには、そういう性辟はダメだと思う」


「いや、別にそんな性癖持ってないし」


凛花が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。


コスプレの類かと思った首輪と鎖。鎖は取り外し可能のようになっていて、プラスチックでできてるけどちゃんと重量感がある。


「これさぁ、『忠誠の証首輪』って言ってね・・・」


「何でそんなの持ってるんだよ。そんなの昔からあったか?」


「無いよー。ちょっとネットで見つけてね。未開封未使用だから新品だよ」


「中古品だったらそれはそれで嫌だが」


「確かに『繋ぎ止める』には新品より中古品の方が効率的ですぜ、旦那!」


「別にそんなもんに頼るほどとろけた脳みそしてないし、切羽詰まってるわけではない。女子同士でやってくれよ」


「まさか女子同士を薦めてくるとはねー。なかなかに上級者」


「言ってろ」


占いやお守り効果があるかどうかは置いておいて、どうせこいつはお節介で俺の恋路を〜とか思ってるんだろうが、俺は全然その手のモノに興味がない。


「あっくん、遠慮はしなくて良いよ?タダ飯食いのペットだって言ってくれても怒らないよ?」


「どんだけ自己評価低いんだよ。・・・ってそういう風にしたのは俺か?・・・俺かぁ・・・」


「ちょいちょい!お遊びの首輪でそこまで落ち込まないでよ」


「これ、確認しておくが、ペット用じゃないよな?人間用だよな?」


「人間用だよ。つけたらあなたもソクバッキーの仲間入り!」


「俺がつけるのかよ!」


「え?ダメ?主従関係の逆転。そう見れるもんじゃないし」


「あっくん、犬になりたかったの?」


「そんなわけあるか!俺はいつでも与える側だよ」


「そういう思い込み、ダメだと思うなぁ」


口走って気づいた。俺はたまに上から目線になってしまうことがある。


「ネタとしてなら・・・つけてカラオケに行くのはアリだ」


「・・・これ、ほんとに効果あるの?だったらわたしが・・・」


「凛花?」


「ちょっとつけてみてもいい?」


「そ、そんなに忠犬になりたいの?」


「うん。みんなに言われてるから、もう別に良いかなって」


なぜか寂しそうな表情を見せた後、ひょい、と輪っかの部分だけを持つ。


「じゃあ飼い主さんはこっち持ってみよー」


俺は少しだけ重量感のある鎖を手首に巻く。


凛花の細い首に、赤い首輪がカチッとはまる。


「うおっ!?」


一瞬、ギチッと鎖が俺の左手首を締め付けたような痛みが走る。


そして、信じられないことが起こったのだ。


「り、凛花?おまえ・・・」


「あっくん、なぁに?」


今、確かに俺は凛花が首輪をつけるところを見た。絶対に、見たはずだ。


それが、彼女の首から消えている。


もっと驚いたのが、凛花の頭に茶色の耳が生えていることだった。

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