第3話 エスカレートしている

休み時間にはうちのクラスに一日一回熊が来る。


それは比較的可愛い方のやつであって、決して怖い存在ではない。


何を言ってるかわからないかもしれないが、ベアーと呼ばれている女子がいる。


阿部碧(あべみどり)。身長180センチのバレー部だったやつだ。そんなやつが休み時間毎に遊びに来る。もううちのクラスの連中は慣れたもんだから気にしないが、彼女の佇まいには圧倒的存在感がある。


「がおー!」


「ベアー!!」


凛花が威嚇すると、阿部も吠える。いつもいつもそんなやかましい挨拶をしなくてもいいのに。


「おはよう阿部。いつも凛花のストレス発散ご苦労さん」


俺より背が高く、元運動部らしく短髪黒髪で通してる阿部。よく男に間違えられるようだが、本人はさほど気にしていないようだ。


「おはよう真野。今日も凛花のがおーが聞けて嬉しいねぇ。ところで今日、カラオケがあるとか無いとか」


「あるけど。もしかしておまえも来るのか?男枠で」


「まさかまさかー。ちゃんとさ、女子らしくしますよ。女子っぽいアイテム持ってきてもらったし」


「凛花。カチューシャ2つあったけど、もしかしてあれって・・・」


「片っぽはみどりがつける」


凛花の手には朝見せてもらったカチューシャがある。それを見た阿部は感嘆の声を上げた。テンションが上がってしまったようである。


「凛花ちゃん。これどっちつけるの?どっちつけていいの?」


「熊は猫耳のほうが近いか?」


「わたし、くまのカチューシャ欲しいな」


「修学旅行の時、売店にうさぎさんのはあった。くまは滅多に見つからない生き物」


「確かに。そんな頻繁に熊にお目にかかったら一大事だ」


熊が大量に出没したら、猟銃を持った人の仕事が増えてしまう。


「えー。じゃあ猫耳で我慢しよっと」


阿部が猫のカチューシャをつける。阿部の脳波を受信して、カチューシャについた耳がピーンと立っていく。


そこに、突然横から現れた若生。茶髪ロン毛のカツラをジャンプして阿部の頭に乗せる。


その茶髪が、良い感じに立髪に見えた。


「ライオンさんだ」


「ライオンだな」


劇的ビフォーアフターの立役者である若生はドヤった渋い顔をして親指を立てている。


それはまるで百獣の王だった。劇団員もびっくりの早技に、周りの注目も集まってくる。


「ベアーーー!!!」


「がおーだよ、みどちん」


凛花が促すと、阿部もジャガーポーズをしてもう一回言い直す。


「が、がおー!!」


「ワン、ワンワン!」


犬耳のカチューシャをつけた凛花が犬の鳴き声で交ざりだす。


「がお!ガオガオ!」


「わおおおーん!」


よくわからないアニマルたちの寸劇が始まった。


それを本人の許可を取らずに携帯で撮影しだした若生。


「真野くん。今撮ってるこのAV欲しい?」


「アニマルビデオのことだな?まぎらわしいぞ!」


「あっ。真野の顔ちょっと赤くなってる!凛花に後で報告報告〜」


は?え?何が!?


「えっちなのはダメー!!」


ガブッ!!!


「いってえーーー!!!何すんだ凛花!」


こいつ、左手を噛みやがった!


「ペット同士の喧嘩を止めるのは飼い主の役目!」


「え?今阿部と喧嘩してたのか?」


どう見てもじゃれあってるようにしか見えなかったぞ?


「してた!あとあっくん、今えっちなこと考えてた!」


「俺にどうしろと!」


「お二人さん、わたしが悪かったよ。喧嘩はしないでよ」


「喧嘩ではないけどな。若生、おまえが余計なことをするからこいつが」


「問答無用!!」


ガブッ!!!


「ういってぇーーーーーー!!!!!」


なんだなんだ?凛花の噛み癖が復活しちまったぞ?


昨日から凛花の様子がおかしい。いや、おかしいというよりは、焦ってるように見えるのだ。

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