第2話 『飼い主』
「おはよっす!真野、おまえも今日カラオケ来るんだよな?よろしく頼む!」
朝、席に着くなり、クラスのはっちゃけ担当、首藤始(しゅとうはじめ)が話しかけてきた。黒髪短髪であっけらかんとした明るいやつである。
こいつは専門学校に行くってもう決めているみたいだから、今の時期にガチガチに勉強する感覚は無いんだろう。受験を控えた俺とは違って余裕があり、少しこいつを羨ましく感じる。
急に俺もカラオケに参加することにしたとはいえ、いつもこいつらがどんな風に遊んでるかを俺は知らない。だから、素直に聞いてみることにした。
「カラオケ、何人来るんだ?」
「男子4人、女子4人の合コンスタイルだぞ」
「は?合コン!?」
俺の思わず出た大きい声に、何人かのクラスメイトが気になったようでこちらを見てきた。
「おいおい。そんな初心な反応見せられると笑っちまうぞ?」
「うちのクラス内で合コンなんて、普通に驚くだろ」
「いや、それが・・・今回はあんまり集まらなくてさ。みんな勉学で忙しいみたいでな。仕方なく他のクラスのやつを呼んじまったんだ」
なんだと!?クラスメイト同士だし、別に気を遣うことも無いからいいか、とタカを括っていたのに。昨日もっと詳しく凛花から聞いておけば良かったな。
「おまえまさか、全然人が集まらないからって・・・凛花を呼んで無理矢理集めたわけじゃないだろうな?」
「いや、最初は若生だけ誘ったんだ。そしたらさ、女子1人だと流石に・・・っていうから、忠犬ちゃんを呼んだわけだ」
よりにもよって、凛花を呼ぶんじゃねーよ。学校行く以外は、インドアでゴロゴロしてるヒッキーだぞ!?
今年はもうコタツ出したから、多分外に連れ出そうとしても無理だぞ!?
「あれ?ダメだったか?忠犬ちゃんって、高校入って初期の頃はみんなで雪合戦とかしてたし、割とノリ良くてアクティブだったと思ったんだが・・・飼い主の束縛がキツくなったか」
「もしかして俺のこと言ってる?」
「あのよー。おまえ、まだ自覚無いのか?」
「色んなやつが俺のことを飼い主って言うけどな、凛花が俺の近くで好き勝手やってるだけだからな?」
凛花は幼馴染で、保育所の時から一緒だった。お互いのことはわかるし、一緒にいて苦痛でも無い。
凛花は頭が良いくせに、いちいち俺に自分の行動を決めてもらいたがる。最初のうちは、軽くアドバイスするだけで済んでいたのだが、それがずっと続いてしまっていたので、さすがに俺が状況のヤバさを気づいた。
だから高校に入学してからは『凛花の好きにしろよ』と口酸っぱく本人に言っているのだ。
やっと高3のこの時期になって、凛花が自分で物事を決められるようになった。凛花にとっては良い傾向だと俺は思う。だから、安堵しているのに。
ん?安堵してるんだよな?なんだこのすっきりしない感じは。
「で、どうなのよ。そろそろ忠犬凛花様に、本気と書いてマジの首輪つけるんか?」
「本気って書いてある首輪って需要あるのか?」
「話が通じねぇ!!」
「いや、よく雑貨屋にあるだろ。おっぱいって書いてあるTシャツとかさ。そのたぐいかと思ったわ」
「よーし、わかった。今日のカラオケは俺と真野で、何か面白いTシャツ着て行こうぜ?」
「制服でいいだろ!言っておくが、俺はおまえたちのノリについて行けないぞ?」
「なるほど。つまり、『遊び方がわからないから教えて』って言ってるのか。ギャハハハッ!!」
どう解釈したらそうなるんだよ!
「あっくん、おはよ。・・・首藤くんも」
噂をすれば、本人がやってくる。
朝激よわの、半分寝ている幼馴染。芝浦凛花さんの登場である。
「おはよっす!忠犬ちゃん今日はよろしくな!」
「おはよう凛花。あれ?今日は若生は一緒じゃないのか?」
「昨日、むいむいとは遅くまで通話してたから、多分むいむい起きれてない」
「迷惑行為じゃねーか。あいつ電車だろ?既読はついたか?」
「遅刻ギリギリになるって。だから、先に来た」
ふわぁと両手で欠伸を隠す凛花。相当遅くまで起きていたらしい。若生が気の毒である。
ダッダッダッダッダッ。
「ぜぇ、はぁ・・・ま、間に合った・・・」
息を切らして飛び込んで来たのは、髪が風でボワーってなった後の、絶不調であろう若生さんである。
「むいむい、おはよう。そしてお疲れ」
「な、な、何なのよ。家が近い凛花と遠いわたしの差は!?」
「お詫びにポッキー食べる?」
「い、いらない。もう、凛花ってば、寝落ち通話するって言ってなかなか寝ないんだよ!?」
「おはよう、若生。災難だったな。こいつと寝落ち通話なんてしてはいけない」
「真野おはよう。その情報、言うのが遅いわよ!」
「へぇー、寝落ち通話なんてするんだ。俺なんか秒で眠れるから無理だな」
「首藤くんは既読つけたら返しなさいよ!」
「あ、わりぃな。返すの忘れてたわ」
大雑把なところがあるのに、結構な人望がある首藤。こいつの、あまり深く考えないところが功を奏しているのかもしれない。
しかし、そんな首藤でも今の時期は遊ぶ相手探しに苦労しているようだ。進学校だからこの時期は誰も遊ばないと思う。いつもなら試験終わりに遊びに行っていたやつらも、受験を見据えた戦いに切り替えてからはピリピリしている。
ちょんちょん。
凛花が指先で俺の袖を引っ張った。
凛花に目をやると、バッグから犬耳と猫耳のカチューシャを取り出し、俺を見上げて聞いてくる。
「どっちが良い?どっちも動くよ」
「懐かしいな、それ。中3の修学旅行で買ったやつか」
「何それ。あー!脳波をキャッチして、耳が動くカチューシャじゃん」
「カラオケ、初対面の人もいるから持ってきた」
「まさか、これで相手の気持ちを探ろうってのか?」
「ダメ?ほとんど使う機会無かったから。試しに使いたい」
喜怒哀楽がわかるカチューシャなんて、使う機会ないだろ。ほんと何のために買ったんだよ。修学旅行の浪費は恐ろしいわ。
「飼い主の趣味ですか?」
若生が苦笑いしている。若干引き気味だ。
「選んだのはこいつだからな?俺じゃないからな?」
「あっくんは、わたしがこれつけたら可愛いって言ってくれた」
「そんな昔のことは知らない」
「ひどい。噛んだら思い出す?」
やめなさい。こいつの八重歯、めっちゃ痛いんだよ。
まぁ、知らないっては言ったけど、嘘だよ。覚えてるぞ。似合う?って訊かれたから、普通に可愛いぞって答えただけじゃないか。
「おう。忠犬ちゃんらしいな。このへっぽこ飼い主にお見舞いしてやれよ」
「がおー」
「若生、俺悪くないよな?」
「全面的に真野が悪いよ」
「んなっ!?」
どうやら俺の味方はいないみたいだ。凛花を見れば、こいつは自分が正しいと主張するように胸を張ってふんぞり返っている。
「あー・・・。すまん。覚えてたわ」
膨れていた凛花は、俺の謝罪に対して一言。
「次に嘘ついたらハリセンボン飲ます」
「それ高校生になって言うやついるか?」
凛花に噛まれるよりハリセンボンの方が痛そうだ。そんな突飛な想像をしながら、1日がいつも通りに始まっていった。
ーーーーーー
作者より。
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